「っ!あぶね、!」
投げ出した拳をしまえない

「!」
それに気づく、掌で受け止める

「お前は、」
こんなことが出来るのは一人だと考える

「やっぱり男鹿か」
掌の感触と声で相手を確信

「真白じゃねぇか」
同じく確信した

「久しぶり。元気?」
目を合わせる

「ああ。真白はどうだ?」
笑いかける

「私も元気」
応えて笑う

「いだだだっ、何すんだ真白」
頬を思い切りつねられる

「何となく」
手を離すと同時に同じことをされる

「痛くねぇのか?」
無反応に少し拗ねる

「痛くないわけじゃない」
声にならないだけと答える



長い長い、くちづけ。
共に過ごせなかった日々を埋める為の、くちづけ。
今此処にいると確かめる為の、くちづけ。



「これから、どうするんだ」
「こっちで暮らす」
「向こうはいいのか?」
「きっちりケジメ、つけてきた。大切な人は沢山いるけど……」
「じゃあ尚更、真白は向こうにいた方がいいんじゃ、」
「私は男鹿が一番大切なの。男鹿は私を変えてくれた」
「真白……」



男鹿に出会ってこっちで過ごして向こうに戻ったとき、私は大切な人の重さを知った。こんなにも家族や友達は重いものなんだと痛感した。だからこそ私は、こっちで男鹿と過ごすと決めたんだ。



「男鹿は、ただ殴って蹴ってするだけだった私に、護る為に拳を振るうことを教えてくれた」
「教えた覚えはねぇな」
「そうね、直接は教わってない。でも私をかばってくれたときの男鹿の背中が、そう物語っていたの」
「あの時、か」
「うん。私あの時に男鹿を好きになったんだよ」
「俺はその前から真白が好きだった」
「あ、ちょっと意外」
「そうか?」
「私が男鹿を好きになってからだと思ってたから」
「真白、泣いただろ?」
「こっちに来た一週間後ね」
「その時に惚れた」
「そんなに前?」
「ああ。この世界では俺が真白を護ろうって決意したな」



大切な人を捨てたわけじゃない。暫しの別れを告げただけだ。いつかまた会えると私は信じているし、信じていればきっと会えると思うから。だからそれまでの別れであって決して捨ててきたわけではない。




サヨウナラじゃなく、
    またねと言った。

(真白、泣いてねぇけど、辛くないのか?)
(辛いよ。でも今泣いたらもう会えなくなりそうだから)
(真白……っ)
(そんなことされると泣きそうだよ男鹿、離して)
(嫌だ。思い切り泣けばいい)
(っ……男鹿、)



(2010.08.31)




男鹿くんお誕生日記念でした!



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