あれから、三年が経った。

真白のいねえ三年は、とてつもなく長かった。

けど、短くも感じた。


あの日から、真白は一度も目を開けていない。

傷だらけになりながらも戦って、戦い続けた。

ボロボロになって、倒れて、意識を失った。


“信じていれば、必ずまた会える”

と、そう俺に教えてくれた。




「真白……」



傷はこの三年のうちに、全て治った。

だけど、今もまだ昏睡状態のままで……。



「目、開けてくれるよな」



必ずまた会えると、真白は言った。

俺は信じる。また会えると。



「真白、」



真白の名前を呟くと、いつも聞こえてくる。

海燕、と俺の名を呼ぶ、真白の声が。

ほんの少し高めの、可愛くて綺麗で、存在感のある声。

その声が俺の名を呼ぶ度に、俺はいつも心臓が跳ねる。



「もうこんな時間か」



ふと見た時計の針は、四時を指していた。

もちろん、夕方のだ。


時計から真白に視線を戻す。

だけど真白はやっぱり、目を開けていなかった。



「……戻るか」



一人そう呟いて、立ち上がったときだった。

不意に聞こえた声。



「かい、えん、」



その声は。

三年もの長い間、聴いていなかった声。

ずっと聴きたいと願っていた声。

ほんの少し高めで、可愛くて綺麗で、存在感のある声。



「海燕」



懐かしい声。

そうだ、この声は。

俺の名を呼ぶこの声は。



      ――真白の声。




「真白、」



立ち上がった俺の目に映った真白は……目を、開いていた。

二重で、少し切れ長のその目が、開いていた。



「ね、言った、でしょう?」



俺の方へ伸ばされた真白の手を取る。

真白の、温もりだった。



「私は、死なないって」



あの日卯ノ花隊長は、意識を失った真白を見て言った。

この先真白が目覚める確率は低いと。

ゼロパーセントに近いと。

それでも俺は、信じた。



「必ずまた、会えるって」



真白は目覚めると。真白にまた会えると。

信じなければ、もう二度と真白に会えない気がした。



「……ああ」



真白にキスを落とす。

懐かしい味がした。



「真白」

「ん?」



真白の右手を、俺の左手でしっかり握る。

空いてる右の手で、真白の右の頬に触れた。



「愛してる」



耳元で囁いて、もう一度真白にキスを落とした。

まだ目覚めたばかりの真白の頬に。


熱が集まっていくのを、右手で感じた。




信じれば叶うと、俺は知った。

真白が俺に教えてくれた。


全部が全部、信じれば叶うわけじゃねえ。

けど俺はどんなことも、信じ続ける。


信じてみねえと、何も始まんねえ。

俺は、そう思った。



(2009.05.26)



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