私はごく普通の女だ。死神としては鬼道に長けている方だが剣術がイマイチでこの間やっと八の席を貰えた。副隊長の檜佐木さんはどうやら同期みたいだけれど私には全く記憶がない。絶対に先輩だと思っていた。最近そのことを知って物凄く驚いた。



「なぁ、真白ってさ、」

「何ですか?」

「コンタクトなんだよな」

「はあ、それが何か」



檜佐木さんは黙り込んで何かを考え出した。かと思えば何処からか色んなフレームの眼鏡を取り出してきてまた何かを考えている。それもぶつぶつと独り言を言いながら。



「檜佐木さん?」

「何だ?」

「用がないなら仕事に戻りますがよろしいでしょうか」

「いや、ちょっと待ってくれ」



早く仕事を終わらせたいのだが同期と言えど上司に逆らうのは何とも気が引ける。嫌なことならはっきり逆らうのだけれど私はまだ特に何もされてなどいない。コンタクトだよなと言われただけだ。



「真白、こっち向け」

「はあ」

「お、やっぱ真白にはピンクだな」

「ピンク?」



何がピンクなのか問う前に檜佐木さんは私の後ろに回った。動くなと言われたからしばらくじっとする。どうやら彼は今私の髪の毛を弄っているようだ。



「これでよし、と。真白、鏡持ってねえか?」

「鏡……あ、どうぞ」

「サンキュ。ほら、どうだ?」

「……どうと言われましても」



鏡を渡すと後ろから手が回ってきてその鏡で私を写す。今私はピンクの縁の四角い眼鏡をかけている。度は入ってないみたいだからきっと伊達眼鏡だ。普段二つに結んでいる髪は両側に少しだけ髪を残して他は左側の高い位置で一つに結ばれている。



「俺、真白は眼鏡の方が似合うと思ってたんだよな」

「だからこれを?」

「ああ。それで、髪型は乱菊さんに真白に似合いそうなのを訊いておいた」

「……はあ」



一体これは何をしているのかと疑問が今更になって出てきた。確かに私は眼鏡の方が似合うとよく言われるが眼鏡は何かと邪魔だ。髪は邪魔だけど凝った結び方をするのも面倒だから二つに結んでいるだけ。



「可愛くなったと思わねえ?」

「いえ思いません」

「自分じゃそうか。でも真白、可愛くなったぜ?」

「……っ」



背の高い檜佐木さんが私の顔を覗き込んできた。その台詞も笑顔で目の前で言うから思わず頬に熱が集まった。檜佐木さんは顔がいいから余計にそういうのは心臓に悪い。



「真白、顔真っ赤」

「檜佐木さんの所為です」

「真っ赤なのに相変わらず冷静だな。好きだぜ、真白のそういうところ」

「す、すす、す、好き……?」



片手で顎をそっと持ち上げられて檜佐木さんはぐっと顔を近づけてくる。互いの息がかかる程の距離。本気だからといつもより低い声で言われた。そのあとはすぐに離れて、そのままでいろよと紡いだあと行ってしまった。私は少しの間その場から動けなかった。



(2011.03.31)



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -