もう私どうすればいいかわからない。だから逃げてきた。これ以上アイツに迷惑かけるのなんて嫌だしこれ以上アイツを好きになるのも嫌だ。そう……私はただ怖いだけなんだよ。そんなことくらいとっくの昔に知ってる。



「見つけた、真白」

「恋次、か」



私は臆病なだけなんだ。一人の人に溺れるのが怖くて逃げ出してきたただの臆病者。昔からそうだった。怖くなったらすぐ逃げて後でああしてればよかったこうしてればよかったって後悔するの。もう決まったパターンだからこれからどうなるのかが手に取るようにわかる。



「戻るぞ」

「嫌だ」

「真白!」

「私のことは、もう放っておいて」



こんな臆病者の周りに友達とか知人とか家族とかがいていい筈がないんだ。こんな臆病者は一生一人で過ごしていけばいい。どうせ何をしたって逃げてばかりなんだから。何をしたって、何もしないのと大差ないんだよ逃げるってことは。逃げるくらいなら最初から何もしない。これも、ただ逃げてるだけに過ぎないけれど。



「あの人が、檜佐木さんがどれだけ心配してんのか、知ってんのかよ?」

「知らない。知りたくもない」

「なら教えてやるよ」

「私のことは放っておいてって言ってるじゃない!」



いつもいつも逃げてばっかりで何もしやしない。わかってるよわかってるの全部全部全部。だけど私は臆病だから結局何もしない変えようとしないの。ほらねこうやって臆病だからって逃げてるのもそう。



「檜佐木に、伝えて。華紀真白は死神をやめ、自害したと」

「断る」

「恋次が何を言おうと、私の決意は変わらないから」

「知るかよんなこと。檜佐木さんに伝えたいことがあるなら、お前の口から伝えやがれ」



私は恋次に強引に檜佐木のところへと連れていかれた。必死に抵抗はしたけれど女の力じゃ男の力には敵わなかった。後から考えれば鬼道を使って逃げることも出来た。だけどその時の私は何も考えられないくらいに頭の中がぐちゃぐちゃになっていたみたいだ。



「真白、」

「……………」

「真白」

「気安く名前呼ばないでよ」



どうして私は逃げることしか出来ないのだろう。何に対してもどんなことに対してもずっとずっと逃げてる。昔はこんな臆病な弱虫なんかじゃなかったのに、いつからこんな醜い生き物になってしまったのだろうか。



「真白は、逃げてなんかいねえよ」

「……っ!」

「ちゃんと向き合ってる」

「私は逃げてしかない!離して!」



怖くて怖くて怖くて怖くて……自分自身が傷つくのが怖くて、私は逃げてるの。こうやって檜佐木に抱きしめられたって怖くて仕方ないの。どれだけ檜佐木に好きだって愛してるって、想いは変わらねえって言われても不安で仕方ないの怖いの。私は私の言葉さえ信じることが出来ないから。……ほらまた逃げてる。



「真白、俺のことを見て、考えてくれただろ?」

「見てなんかない考えてなんかない。ただ逃げただけ。好きだって言ってくれた檜佐木に逃げただけ」

「違え。真白はちゃんと、俺と向き合ってくれた」

「そんなことない!逃げたいが為に私は檜佐木を利用しただけ!」



どうして?どうして檜佐木は私を逃がしてはくれないの?今までの男なら用が済めばすぐに捨てられたし私が捨てたら追ってなんてこなかった。引き止めたりもされなかったのに……どうして?私檜佐木のことがわからない。



「真白は、真白を過小評価しすぎだ。俺が逃げてねえって言うんだから真白は逃げてなんかねえ」

「…………」

「約束の時間に遅れねえようにする、傍にいて笑ってくれる、相談に乗ってくれる。それだけで俺のこと、考えてくれてんじゃねーか」

「そ、れは、」



ねえ私逃げるんじゃなかった?もうこのまま一生逃げて逃げて逃げてして過ごすんじゃなかった?例えどれくらい周りに迷惑がかかろうと、私のしたいように逃げ続けるんじゃなかった?
檜佐木に……修兵に、決意を揺るがされた。そうだ修兵はこういう奴なんだった。



「ばか修兵っ!」

「うおっ!?……って、ばかはどっちだっつの」



あのとき鬼道を使って恋次の手から逃れていれたら、きっと私はこんなことにならなくて済んだんだ。自ら己が傷つくような道に進むと決意しなくて済んだんだ。修兵なんかに逃げ続けるって決意した心を揺るがされなくて済んだんだ。





(私が傷ついたら、修兵の所為だからね)
(ああ、いくらでも責任取ってやるよ)
(……どうして修兵は、こんなにも私を、)
(真白が好きだからに決まってんだろ)



(2009.09.26)



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