違う。違う違う違う。全然違う。私が欲しいのはそれじゃない。違うの、全然違うの。近いけれど遠いだから違うの。私はそれが欲しいんじゃない。誰か、わかって……?



「今から現世任務か?」

「うん、そう」

「頑張れよ」

「ありがとう」



院生のときに知り合った同期の男の子に声をかけられた。いつもの言葉だった。男の子に続いて、他の同期や後輩、先輩からも同じ言葉をかけられた。全て、笑ってありがとう、で片付けた。



「真白、行くぞ」

「はい!」



頑張れ。その一言をいつもかけてくれないのは、今話しかけてきてくれた副隊長だけ。修兵だけ。理由はわからない。冷たい彼氏だとは思わない。無言の頑張れのような気がして逆に頑張れたりもするくらい。



「だ、めだ……。もうもたない……!」

「真白!」



隊士は周りで何人も倒れている。なんとか私だけで持ちこたえていたところに、修兵が駆けつけてくれた。彼は無傷だ。私は至る所に無数の傷がある。左腕の傷からは、血が滴り落ちている。何という体たらくだ。



「真白、大丈夫か?」

「なんとか……ってとこです」

「待ってろ、すぐ片付けてくる」

「副隊長!」



修兵が来てくれたことで安心している私がいる。どうしていつも、こうなんだろう。私は修兵に依存してる。三席になってまでこんなのじゃだめだ。もっと力をつけて、修兵に依存しない戦いをしなきゃいけない。



「虚は片付いた。コイツら連れて引き上げるぞ」

「……」

「真白?」

「……は、はいっ!」



奴――虚の特徴とかを教えようと思ったらさっさと虚に突っ込んでいった修兵が、たったの数分で戻ってきた。
二人程傷の深い隊士を背負って歩き出そうとする修兵。他の隊士はなんとか歩けるみたいだ。



「何の、用なんだろ、修兵」

「待たせたな」

「あ、副隊長。お疲れ様です」

「敬語。あと修兵」



尸魂界に戻ってきて、隊長に任務の報告をしていた修兵が、副官室にやってきた。私は修兵に呼ばれてここにいるのだ。何の用かはわからない。ただ四番隊から九番隊の隊舎に行く途中で、副官室で待ってろと言われただけだから。



「どーしたの、修兵。呼び出したりして」

「怪我……何ともねえか?」

「うん、大丈夫。大したことないよ」

「そうか。ならいい」



どうしたんだろう、修兵。いつもと雰囲気が違う感じがする。いつもならこう……もっとチャラチャラした感じの軟派な雰囲気が漂っているのに、今は真面目な硬派な男の人みたいな雰囲気だ。



「真白」

「ん?」

「よく、頑張ったな」

「しゅう、へい……?」



ぎゅっと抱き寄せられて、背中をぽんぽんと優しく叩かれた。ただそれだけのことなのに、私の目頭は熱くなる。どうして修兵という人はこんなにも優しくて、温かいのだろうと思った。



「俺は、頑張れなんて言わねえ。だって真白、頑張ってるだろ?」

「修兵……っ」

「真白は頑張った。ちったぁ休めよ?」

「う、ん、ありがとうっ、」



修兵はいつだって私の欲しい言葉を持ってる。いつだって私の欲しい言葉をくれる。どうしてわかるのかが不思議で仕方がないのだけれど、訊いてもいつも上手いことはぐらかされてしまう。





名前を呼ばれて顔をあげた、そのときのキスは、とってもとっても甘かった。



(2009.09.26)



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