頭上でサンサンと輝く太陽。
その太陽から降り注がれる大量の光。
暑くて暑くて堪らない。
アスファルトからの照り返しも半端じゃない。
そんな暑すぎるくらいに暑い中、やっと辿り着いた一つの家。
早く中に入りたい思いをぐっと堪えて、チャイムを鳴らす。
少しして、機械的な目的の人物の声が聞こえたから、私だということを伝えた。
ガチャリと扉が開くまで、1分もなかった。
けれど私には、その時間がとてつもなく長く感じた。
「どうしたんだ?」
「宿題、わからない」
「また数学か?」
「うん……」
部屋に案内されて、テーブルに向かい合って座った。
毎年の恒例と化してきているのだ、私が数学の宿題がわからないのは。
だって、わからないものはわからないんだもの。
「ちょっと待ってろ。飲みもん持ってくっから」
「らじゃー」
そう言って彼、檜佐木修兵は、部屋を出ていった。
部屋に残された私、華紀真白は、数学のワークを開いた。
何度見ても、やっぱりわからない。
なんでこんなものがわかるのだろうか。
ただひたすら数字と睨めっこしていたら、修ちゃんが戻ってきた。
「あ、おかえり、修ちゃん」
「修兵って言っただろ?」
「いーじゃん修ちゃんで。たまには修兵って呼んであげるから」
「よくねえ」
はぁ、とため息をついてテーブルの上にお茶の入ったコップを置くと、修ちゃんは私にキスをした。
さっきとは違って、修ちゃんは私の隣に座る。
どこがわからないんだと問われたから、いつもの如く全部と返した。
本当に全部わからないんだもの。
まぁ、ところどころわからなくもないが。
修ちゃんはまたため息をつく。
「わかるとこ、ねえのかよ?」
「ないから修ちゃんとこ来てるの」
「たく、相変わらずだな、真白は」
「数学なんて、わかる人がわからないよ」
まずさ、数学なんていつどこで使うときが来るのさ?
xだyだπだ√だって、学者さんにならない限り一生使わないっつーの!
なんて、頭の中で文句を垂れていたら、また修ちゃんにキスをされた。
「それに、」
「ん?」
「わかるとこなら、もうやったよ?」
「真白お前……これだけ、かよ?」
うん、と素直に頷くと、見事に盛大なため息が返って来た。
幸せ逃げちゃうよ、と言えば、誰の所為だと軽くデコピンをされた。
わざと痛がってみせると、修ちゃんからはとろけるような甘い甘いキスが。
「なあ真白」
「なぁに?」
「教えてやる代わりにさ、間違えたらキスな?」
「りょーかい」
私の答えが意外だったのか、修ちゃんは驚いている。
修ちゃんとキス出来るなら、何度だって間違えてやる。
でも……宿題が終わらないのは嫌だな。
「真白、」
気づけば私は数字と睨み合っていて、修ちゃんに呼ばれた。
修ちゃんの方を向けば、今日四回目のキス。
後頭部を支えられているから、深いのかなぁ、なんて、私は呑気に考えていた。
「んぅ……っ」
だけどそれも束の間。
すぐに私を、甘い感覚が襲ってくる。
息は苦しいけれど、もうしばらくこうしていたい。
と、私は脳の片隅で思った。
「よし、やるぞ」
「修ちゃんのばかぁ……」
修ちゃんの甘いキスの所為で、すっかり体の力が抜けてしまった私。
やけに満足そうな笑みを浮かべる修ちゃん。
私は修ちゃんに体を預けた。
「真白が悪いんだろ。俺を欲しがってたぜ?」
「そんなことない!」
「ほら、その目」
「目?」
私が聞き返すと、修ちゃんがキスをしてきた。
そりゃぁまあ確かに、いつだって修ちゃんは欲しい。
でもその感情は表に出しちゃいない。
……はず。
「ほら真白、やるんだろ?」
「むぅ……」
頑張れよ、と修ちゃんは言って、もう何度目かは忘れたけれどキスをされた。
このあと、私が修ちゃんに何度もキスをされたことは、言うまでもないだろう。
数学なんて大嫌い!
でも修ちゃんとキス出来るから、ちょっと好きかも。
(2009.08.14)
修兵お誕生日記念でした!