黒崎を信用したわけじゃなかった。だからこそいつもとは別の場所へと足を運びそこで休むことにした。そのことを黒崎は全く感じていないようだった。いつもの場所など知らないから当たり前だろうけれど。
「知ってると思うけど、俺は黒崎一護。死神代行だ」
「夕深怜香。元九番隊第三席だ」
「九番隊って確か、檜佐木さんのところだよな?」
「ああ」
隣の枝から黒崎は話しかけてくる。時々私の様子を窺っているようだったが私は敢えて真っ直ぐ前を見ていた。視界が一瞬で真っ黒になったかと思うと、すぐに黒崎の顔が比較的アップで映し出される。何事かと目を見開いた。
「教えてくれる、っつったよな」
「……は?」
「怜香が瀞霊廷を攻める目的」
「そのことか」
少し躊躇ってから、簡潔にまとめようと頭を働かせた。結論は至ってシンプルなものに辿り着いた。全てを話さずとも攻める目的だけ告げればいい。それ以上は私から話す理も義務もない。
「復讐だ。私は死神が憎い」
「怜香も死神なのに、か?」
「色々あった」
「……そうか」
黒崎はただ頷いて隣の枝へ戻っていった。何も訊かないのかと驚きすぎてしばらく呆然としていた。余り話したくないと思っているのに不思議な話だ。何故か黒崎には心を許してしまいそうになる……まだ信じているわけではないのに。
「黒崎は、」
「俺?」
「何故死神代行になったんだ?」
「家族を護る為だ」
家族――その言葉に、父さんが思い出される。楽しかった思い出も辛かった思い出も……全てが走馬灯のように脳裏を駆け巡っていく。双眸から一筋ずつ涙が零れ落ちた。父さんはもういない、その事実を改めて目の当たりにして哀しみが溢れ出す。
「何か、あったんだな」
「黒崎……?」
「家族のことで、死神と何かあったんだろ?怜香、泣いてるから」
「……っ」
気づけば黒崎が私の前にいて、涙を拭ってくれる。洞察力に長けているのか直感が鋭いのかはわからないけれど、黒崎の言っていることは間違いではない。見上げたら黒崎と目が合い何故か涙が止まらなくなった。
「怜香の家族は?」
「、……」
「そうか」
「く、ろ、さき、」
問いかけに首を横に振ると、抱きしめられた。幼い頃私が泣き出すと父さんがいつもそうしてくれたみたいに、母さんのように優しくて暖かくて、それでいて男の人特有の逞しさで安心を与えてくれる。父さんが抱きしめてくれている、そんな錯覚に陥った。
(2012.10.07)
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