あの事件の真相を知って以来……私は死神が憎くてならない。父は死神を憎む為にそうしたのではなく、虚を討伐する為にそうしたのだとわかっているけれど。だけど憎まずにはいられないのだ。真実も知らずに私たちを絶望の淵に墜とした死神を――。



「怜香、お前なら必ず、討伐に成功してくれる。そう信じているよ……」

「ごめんなさい、父さん。討伐は必ず成功させてみせる。だけど……私は、死神など、」



脳裏に映像が甦り、私は呟いた。誰にも気づかれぬように瀞霊廷を出て人気のない場所へ行った。そこで死覇装を脱ぎ現世で買っておいた服に着替える。髪染めのスプレーを使って髪を金色に染めてから、斬魄刀を鞘から抜いて死覇装を切り刻んだ。



「君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ 蒼火の壁に双蓮を刻む 大火の淵を遠天にて待つ 破道の七十三、双蓮蒼火墜」



死覇装が一瞬にして灰となる。これでいいんだ……そう、これで……。父も独りで戦ってきた。だから私も独りで戦うんだ、憎き憎き死神と。だけどあそこには大切な人もいた。最後まで父の無実を証明してくれようとした、あの三人。兄弟子二人と師匠……大切だった、それでも無実を証明出来ずに処刑されるのをただ見ていただけだった。



「サヨウナラ、私はもう帰らない。後戻りは出来ない」



フードを深く深く被り、金色に染めた髪を隠す。背の高い木を見つけてその木の上の方で枝に座り、幹にもたれて眠った。
その日は夢を見た。まだ真実を知る前の楽しかった日々の夢。



「怜香ちゃんじゃないか」

「やあ、怜香ちゃん」

「こんにちは、春水さん、十四郎さん!」

「相変わらず可愛いねえ」



春水さんに思い切り抱きつくとよしよしと頭を撫でられた。二人に会ったときはこうするのだと決めていていつも欠かさずそうしている。気分は歳の離れた兄、という感じだけれど、それ以上に兄弟子ではあるけれど大の親友だ。



「どうして怜香ちゃんは、いつも京楽にばかり抱きつくんだい?」

「下手に抱きついて十四郎さんが吐血でもしたら大変じゃない!」

「ははは、そうか、僕のことを考えて」

「うん、でも、これからは十四郎さんにも抱きつく!」



そっとぎゅっと十四郎さんに抱きついた。春水さんと同じでやっぱりとっても温かい。十四郎さんも春水さんのように私の頭を撫でてくれて自然と頬が緩んだ。ふと気になってどこに行くのか尋ねると、お茶を飲みに行くそうだ。



「怜香ちゃんも行かないかい?」

「行く!元柳斎先生、誘ったら来るかな?」

「元柳斎先生は……」

「じゃあ、山じいのところでお茶しようよ〜」



名案!と私が言って、三人で一番隊舎へと向かった。久しぶりに二人と手を繋いで歩くと何だか照れ臭かったけれど凄く嬉しかった。この日が最後になるとは、思ってもみなかったけれど。


す、と目が開いて虚空を捕える。夢か……と朧げな思考回路で考えてもう一度目を閉じた。



「春水さん……十四郎さん……元柳斎先生……」



呟くと涙が一筋零れた。だけどもう決意したこと。いまさらこの決意を簡単に変えてしまうわけにはいかない。そう……だって、いくら大好きな三人と言えども――私は。



(2012.04.04)


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