上空高くに立ち尸魂界を一望する。なるべく流魂街には被害を出したくない。今までもそう考えて瀞霊廷だけを攻撃してきた。これからもその考えを変えるつもりはない……が、死神どもは流魂街にも潜んでいる場合がある。
「だけどまずは、瀞霊廷を攻めなければ始まらない」
呟いて瞬歩で瀞霊廷内へ侵入する。今日は正々堂々と真っ正面から啖呵を切ってやる。我が物顔で廷内をあるいていると当たり前だがダレカが気づくわけで。顔はフードで隠していてもそのフードが目立つのだ。霊圧も今は隠していないから侵入した時点で隊長副隊長なら簡単にわかっただろう。
「怜香さん……まさか貴女が、裏切るなんて」
「桃。久しぶりね」
「信じていたのに」
「私にも色々あるんだ」
一番最初に現れたのは雛森桃だった。乱菊と三人でよくお茶をしに行っていたことを思い出す。桃とは特別仲が良かったわけではないがそれなりに親しくしていた。そうこう考えているうちにも桃は始解して私に飛びかかってくる。
「どうして、怜香さんなんですか!」
「それは運命にでも聞いてくれ」
「じゃあどうして、この道を選んだんですか……っ」
「過去を、知ってしまったから……だ」
交わった刀を弾き飛ばす。桃の手から離れた斬魄刀は綺麗に円を描いて少し遠くの地面へ突き刺さった。鬼道を放とうとしている桃の後ろへ回りこんで喉元に刀を宛てがった。固まる桃。
「あんなにも優しかったのに」
「復讐に囚われた身だ」
「怜香、さ……」
「以前の私など、もうどこにもいない」
刀を握ったまま、後ろから桃を抱きしめる。華奢なその体に色々な思いが詰まっているのだろう。純粋で素直な子だ……壊れないようにしてやってくれと心の中で日番谷に願った。一瞬で刀を持ち替え右手で桃のうなじへ一発、強く手刀を打ち込んで気絶させた。
「すまない、桃。目的はお前じゃない」
呟いて歩き出した。行く宛は全くないが適当に歩いていれば誰かに遭遇するだろう。目的の人物へはまだ手を出さない――これは所謂牽制だ。ふとある霊圧に気づいた。以前私が恋に落ちた人。結局友達止まりで何も発展しないままに気持ちは冷めていった。
「檜佐木」
「やっぱりお前か、怜香」
「瀞霊廷に乗り込むなんて私くらいだろう」
「……そうだな」
互いに始解はせずに戦いが始まる。辺りには九番隊の隊員であろう人がちらほらといて、時々加勢とばかりに鬼道を放ってきた。どれもたやすく避けることが出来たけれど。しばらくののち、檜佐木は始解をした。
「怜香、お前も始解くらいしろよ」
「私が始解をすれば檜佐木が死ぬ。だからしない」
「何温いこと言ってんだよ、俺を甘く見るな」
「目的は檜佐木じゃない。檜佐木を甘く見てもいない」
少しの怒りを纏って檜佐木が向かってくるから、だいぶ霊圧を上げる。隊員たちはすぐに当てられて倒れていき、檜佐木も途中で足が止まる。じわじわと上げるだけ上げて瞬歩でその場を去った。何度か場所を変えては死神と戦うだけ戦って、私は瀞霊廷を抜けた。
(2012.08.26)
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