私と黒崎が捕縛されてから、一週間が経った。その日が私の処刑日だった。黒崎も同じように処刑されるのだともちろん思っているだろう。朝になって迎えが来て、黒崎と二人で懺罪宮を出る。処刑場には既にほとんどの隊長と副隊長がいた。
「いよいよ……なんだね」
「怜香、大丈夫か?」
「大丈夫だよ」
「……俺もすぐ、行くから」
黒崎の言葉に曖昧に笑う。貴方は、きっと、生きられるから。処刑場はいつ見ても殺風景で、愛染の一件があって破壊された双極の代わりに新しい処刑具が用意されていた。とはいえ見た目は双極を小さくしたもので、いわゆる"磔"と似ている。ただ釘やロープで磔にされるわけではなく、浮遊するキューブで手足が固定される。この辺りも双極と変わらない。
「最後に言い残すことはないか、怜香よ」
「……先日の件、くれぐれもよろしくお願い致します」
「わかっておる」
磔柱の前まで来て、元柳斎先生に尋ねられる。その声色はとても優しくて、昔4人で一緒にお茶を飲みながらたくさんの話をしたことを思い出した。これが走馬灯というやつだろうか。私は先日よりも深く、元柳斎先生に頭を下げた。顔を上げると、キューブに手足を拘束されて浮遊する。黒崎に視線を向けると今にも泣き出しそうな顔をしていた。
……伝えなきゃ。
「一護!」
それほど離れてはいないけれど、しっかり聞こえるようにと大きな声で叫ぶ。つまらなそうにしている一部の傍観者もその声に私の方を向く。
「一護!私!」
「怜香!」
黒崎と視線が絡まって、名前を呼ばれた瞬間周りの景色なんて何も見えなくなった。真っ白な世界に二人きりでいるような、そんな感覚に包まれる。
「俺!怜香を愛してる!」
「い、ちご……」
「一人になんてさせねえから!待っててくれ!」
「ありがとう……」
言おうと思っていたことを先に言われ、涙が溢れてくる。拘束されて涙が拭けず、視界が滲んでもう黒崎のことがちゃんと見えない。ぎゅっと固く目を瞑ってから、ゆっくりと開いてみると涙は零れ、先程よりはクリアになった。
「一護、今までで本当にありがとう。すごく、すごく幸せだった。もっと、一護と一緒に生きたかった……っ!」
元柳斎先生が何か合図をしたのが見えた。それと共に目の前の矛が大きく向こうへ引かれる。ああ、もうすぐなんだと、頭の中はやけに冷静だった。ぼんやり見える黒崎の頬は濡れていて、私のために泣いてくれているんだと思うと優越感が胸を浸した。
「一護は生きて。死神を辞めないで」
「怜香、なにを、」
「愛してる。私も、一護を愛してるよ……!」
目の前に矛が迫り、精一杯の笑顔を作った。だけど黒崎の顔は苦痛に歪み、双眸からは涙が止めどなく流れていて。短い間だったけれど、黒崎と過ごした日々はどれもこれも愛おしくて、大切で――なんて幸せだったんだろう。
ねえ、一護、私、死にたくないよ……。
そんな思いも虚しく、犯した罪は、償わなければならない。
「怜香ーーーーーーッ!!!!」
黒崎のその叫びを最後に、私の目の前は真っ暗になった。
(2018.08.12)
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