黒崎に本当のことを話したあと、二人で寄り添って眠ったんだったと、外からの光で目を覚ましてぼんやりと思う。黒崎はまだ眠っていて、覚醒しきらないまま黒崎を眺めていると、平隊員が静かに食事を持ってきた。私たちに声をかけようとするから、人差し指を立てて口元にやり、それを制す。黒崎を起こさないように慎重に平隊員のもとへ行く。
「元柳斎先生に、言伝をお願いしたいんだけれど……」
「言伝……ですか」
「そう。黒崎一護に聞かれないところで、お話がしたい、と」
「はあ……」
訝しむように私を見る平隊員に、念を押すようにお願いします、と頭を下げる。一応頷いてくれたから、食事を受け取ってありがとうとお礼を言った。その後、お昼を過ぎた頃に、事は動いた。
「夕深怜香。事情聴取を行う。出ろ」
「はい」
「怜香……!」
「大丈夫、一護。行ってくるね」
私を呼びに来たのは、九番隊副隊長の檜佐木修兵だった。心配そうにする一護に笑いかけて、檜佐木についていく。もちろん両手は拘束され、周りには監視付きだ。
「……総隊長と話がしたいって、お前が言ったそうだな」
「はい。黒崎のことで、言っておきたいことがあるので」
「無罪放免にしろ、とかなら無理だと思うぜ」
「それでも、言わなければ気が済まないんです。私が勝手に巻き込んだから」
小さな声で話す。檜佐木は驚いたような顔をしたけれど、それが私の考えに対してなのか敬語を使っていることに対してなのかはわからない。それきり会話はなくなり、無言のまま元柳斎先生がいる部屋へとたどり着いた。
「失礼致します。九番隊副隊長檜佐木修兵、謀反人夕深怜香を連れて参りました」
「うむ。ご苦労」
檜佐木が丁寧にお辞儀をして退席するのを見届けてから、元柳斎先生と向き合った。私が初めて見た時から変わらないその姿で目の前にいる元柳斎先生。深呼吸をしてから、元柳斎先生の目を見て口を開いた。
「総隊長。本日は私の願いを聞き入れてくださり、本当にありがとうございます。恐れながら、もう一つだけ、叶えて欲しいことがございます」
「……怜香よ、そう固くならずともよい」
「元柳斎先生……ありがとうございます」
「して、叶えて欲しいこととは何じゃ?」
昔のことを思い出して涙が出そうになる。だけどそれはぐっと堪えて、黒崎について話し始めた。
「黒崎一護の処刑を、取りやめて欲しいのです。無罪放免……とまでは望まないけれど、極刑や死神の力を剥奪するなど重い刑は課さないでいただけたら、と」
「減刑に値する証拠でもあるのかね?」
「はい。彼は、私のことを探るために私と行動を共にしていただけなのです。もし本当に私と瀞霊廷を破壊しようとしていたのならば、代行証は破壊しているはずです。それに何より、彼は瀞霊廷や他の死神たちに危害は加えていません」
「ふむ……」
元柳斎先生は少し考える様子を見せたあと、わかった、と言ってくれて、さらに、このことは私が処刑されるまで黒崎には黙っていてほしいということも承諾してくれた。本当に刑を軽くしてくれるかはわからないけれど、危害を加えていないのは間違いないのだから少なくとも極刑は免れるだろう。
「ありがとうございます。よろしくお願い致します」
部屋を出る前、そう言葉にすると共に深々と頭を下げる。十秒ほど静止して、改めて失礼致しますと告げて元柳斎先生に背を向けた。扉の向こうには檜佐木が壁にもたれて立っていて、監視役の死神の先頭を切って歩き、私を懺罪宮の中へと連れ戻した。
(2018.08.07)
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