――夢を、見た。あの日の夢を。



特に何事もなく終了した任務の報告を済ませ、九番隊舎内を歩いていたときだった。突然視界に靄がかかったようになり、同時に激しい頭痛に襲われた。頭を押さえてその場に蹲る。けれど、何故か自室へ戻らなければという強迫観念にも似た思いに急かされて壁伝いに何とか自室へと倒れ込んだ。直後、さらに痛みは増して私は意識を手放した。


目が覚めると、懐かしい家の中に佇んでいた。そこは昔、父と母と暮らしていた家。私は死神と死神の間に生まれ、貴族でも何でもないごく普通の女の子だった。


「行ってきます、怜香、パパ。今回の任務は、早く終われると思うの。いい子で待っててね、怜香」

「うん!ママ、行ってらっしゃい!」

「行ってらっしゃい、ママ」


もう一度行ってきますと言って母は任務へと発ち、その後帰ってきた時には既に息はなかったそうだ。この頃の記憶は曖昧で、ただ母が死んだという事実だけが鮮明に脳裏に焼き付いていた。
母が死んでも、生活にこれといって変わった点はなかった。父に隊舎に連れて行ってもらい、元柳斎先生や春水さん、十四郎さんと他愛のない会話をして、3人から死神のことを見て学ぶ。
成長してからは真央霊術院に入り、何事もなく卒業、護廷十三隊にも入隊して父と任務に行ったりと充実した毎日だった。そんなある日。


「おい聞いたか?流魂街で大量虐殺があったらしいぞ」

「ああ、こっちでもその話題で持ち切りだ」


道端でそんな会話を聞いて、私は急いで隊舎へ戻った。途中、地獄蝶から詳細の連絡が入ってきて、隊長からも指示を仰いでバタバタしていた。そうこうしている内にも犯人は捕縛され、それが父だと知った時には大きなショックと、父ではないという思いが私の中をグルグルと駆け回っていた。
そしてやってきた父の処刑の日。最期にと父と話をすることができて、父は私に「頼んだ」と言って頭を撫でた。
途端に、ヴィジョンが切り替わる。


「何をするんだ!やめろ!」


そう叫ぶ父の姿が目に入る。父は拘束され、どこか小さな洞窟のようなところに閉じ込められていた。視線の先には虚がいて、その虚は瞬く間に寸分違わず父の姿に成り代わった。父の叫びなど全く聞こえておらず、そのまま流魂街へと飛び立って行った。
しばらくして父の元へ戻ってきた虚は血塗れで、既に死んでいるのであろう流魂街の住人や死神を数人抱えていた。何をするのかと思えば、父の目の前でさらにその人たちを切りつけ、父の死覇装を血で汚したのだった。


「何を……!」


父の抵抗も虚しく、血塗れになった父は虚の手によって瀞霊廷へ放り投げられる。そして虚が去ったあと死神によって発見され、父が全ての犯人だということになり、懺罪宮へと入れられた。


ゆっくりと瞼が持ち上がる。まだ少し痛む頭を押さえながら体を起こすと、それと同時にふつふつと怒りも湧き上がってきた。やはり私は間違っていなかったのだ。父は何もやっていない、無罪なのだ。


「……死神なんて、」




この日から、私の復讐劇は始まった。



(2018.07.27)


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