目を開けると、一面真っ白な空間が飛び込んできた。あのあと私は元柳斎先生にすまなかったと謝られ、その言葉に気が緩んで意識を失ったんだ。ぼんやりする頭で考え、深くため息をついた。疲れたな、と感じたままに瞼を下ろすと、自分の中の霊力がほとんど残っていないことに気づく。基本的に闇風を発動しっ放しだったことと、先の戦闘とで更に削られたこと、そして私が今いるこの場所、懺罪宮に霊力を奪われている。だけど私は、その事実に安心していた。


「これで、もう、終わるんだ」

「怜香……っ!」


呟いたあと、唐突に大好きな声が聞こえてきて慌てて声の方を向いた。はずなんだけれど、視界は真っ白のままだった。


「怜香……無事でよかった……」

「い、ちご……」


黒崎が、白装束を身に纏って私を抱きしめていた。一瞬何が何だかわからなかったけれど、黒崎から伝わる温もりで理解出来た。あまり長い時間離れていたわけではなくとも、もう二度と会えないと覚悟して別れただけに喜びは大きく、同時に、すごく寂しい。ああ、でも、どうして黒崎まで……?そっと顔を上げて黒崎を見ると、想像通り苦しそうな表情が目に入った。


「一護、」

「怜香が……怜香が、捕まったって聞いて、だから俺も……」

「……!ありがとう、一護」

「いいんだ。そんなことより、ここから出ねえと……」


黒崎から離れて、ぎゅっとその両手を握った。黒崎は少し目を見開いて驚いたけれど、すぐに握り返してくれた。ゆっくりと深呼吸をして黒崎を見据える。


「一護、聞いて欲しいことがあるの」

「怜香……?」


もう偽る必要はなかった。復讐は終わったのだ。それを駆り立てる心の奥底の思いも消えた。だから復讐のためだけに使っていた男勝りな口調も用済み。本当の言葉で、本当のことを話す。だけど、ねえ、私はひとつだけ嘘をつくよ。貴方に関する嘘を。……最後の嘘だから、どうか許して欲しい。


「私、父を見殺しにした死神たちが憎くて、憎くて堪らなかった。最初は何があっても、どんな手段を使っても、尸魂界を壊滅させようとさえ思っていたの。だけど心のどこかで、そんなのはどうでもいいって思っている私もいた」

「……ああ」

「本当は、きっと、死にたかったの。だけど自分で死ぬことは怖くてできなくて……。復讐と称して瀞霊廷に歯向かって、攻撃して、そうして捕縛されたら、処刑されるだろうって、考えた」

「怜香……っ」


目は絶対に逸らさなかった。逸らしてはいけないと思った。見ず知らずの復讐者の私と共に瀞霊廷に背を向けてくれて、今までずっと私の側にいてくれた。だからこそちゃんと真っ直ぐに伝えなければいけないと感じていた。それが、黒崎を裏切る言葉だとしても。


「でも、でもね、私、今は少しだけ死にたくないと思ってるよ。貴方に……一護に出会えたから」

「っ……、逃げよう、怜香、ここから。生きて帰るんだ」


黒崎の言葉に、ゆるゆると首を横に振る。いいの、と笑いかけるけれど、上手く笑えている気がしない。その証拠に、黒崎の表情は変わらない。抜け道を探そうと立ち上がる黒崎を止め、今度は私から抱きついた。驚いたのか小さく体が跳ねたけれど、すぐに背中に腕が回る。どうして、黒崎はこんなにも温かいのだろう。今までとこれからを思うと、その温かさに自然と涙が零れた。


「本当にいいのか、怜香」

「……うん。復讐は、終わったの」


自分に言い聞かせるように返事をする。黒崎は不服そうで、だけど自分も一緒に刑を受けるからと主張して聞かなかった。そう言うだろうと予想はしていたから、私はもし最後の願いが叶うなら、と考えていることがある。次に食事が持ってこられたときに言伝を頼もうと、黒崎に勘づかれないようぐっと決意を固めていた。



(2018.07.26)


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