私の否定の言葉に、春水さんも十四郎さんも斬魄刀を構え直す。だけどすぐには飛び出さず、先に向かってきたのは上位席官たちだった。藾枷で鬼道を放ち、その隙に上空へ移動する。私の動きに合わせて黒崎もついてくるけれど、黒崎の前にいた死神たちが追ってくる気配はなかった。


「金藾五章、黄ノ雷鳴」


畳み掛けるように、藾枷を振りかざすと辺りにいくつもの雷が落ちる。見下ろした地では副隊長クラスでさえ立っているのがやっとのようだった。漸く隊長や副隊長たちが重い腰を上げるように、上空――私と黒崎の前に立ちはだかった。最早席官のほとんどは戦力外同然だ。


「一護」

「どうした?……怜香?」

「……今までありがとう。一護と過ごした時間、幸せで、幸せで……これからもずっと、一緒にいたかった」

「怜香、お前、」


闇風の発動を切り替えて、黒崎を振り返る。心底驚いた表情をする黒崎に歩み寄ると、手をぎゅっと掴んで更に上空へと進み、ある程度のところで止まった。私の言わんとすることがわかったのか、酷く苦しそうに顔を歪めて見つめられる。そんな黒崎にゆっくりと近づき、頬に手を寄せ唇を重ねた。


――さようなら。


一歩後ろへ下がってそう告げ、放心する黒崎を置いて、空を蹴って死神たちの元へ戻る。その間に闇風を武器に変え、見知った顔ぶれを一通り見渡すとそのまま黒崎からできるだけ遠くへ、場所を移した。私についてきたのは春水さんと、十四郎さん。ちらりと見た限りでは、黒崎を取り囲んだのは阿散井やルキアなど黒崎と交流の深かった者だった。私は瞬歩でひたすら進み、先ほどとは正反対のところで春水さん、十四郎さんと対峙していた。睨み合いが続き、踏み出そうと思ったその時。


「儂が相手をしようかのう」

「元柳斎……先生……」

「……怜香、お主の父は、こんなことを望んでなどいなかったじゃろう」

「……っ」


凄まじい霊圧と共に現れた元柳斎先生。何の感情も読み取れない元柳斎先生は、私の霊圧が元柳斎先生に劣っていないことはわかっていながらも背筋が凍るような怖さを孕んでいた。ふと、元柳斎先生の言葉に疑問が生じる。父が復讐を望んでいないことを、いや、そもそも私が父の件で復讐をしようとしていることを、どうして知っているの……?


「どういう、ことですか」

「そのままの意味じゃよ」

「元柳斎先生は知っているのですか、……父の、ことを」

「……怜香」


ああ、どういう訳だか、元柳斎先生もあの日の記憶を見たのだろう。もしくは最初から知っていたんだ。そう、思った。ただひたすらに悲しみだけが込み上げてきて吐き気がした。もとは元柳斎先生と戦うことも目的のうちだったからちょうど良かったのかもしれない。藾枷を一旦鞘に収め、闇風を胸の前で構える。左手を添えて唱えた。


「卍解、闇風天翔」


闇風は隠す時と同じ羽になり、包み隠すのではなくくるくると両腕に巻きついて消えた。卍解することによって掌から直接、攻撃が可能になる。
藾枷をもう一度抜いて、感情のままに元柳斎先生に飛びかかる。けれどそんな無作為な攻撃は元柳斎先生に通じるわけもなく、もうどのくらいの期間闇風を発動し続けているのかわからない霊力の消耗もあり、あっさりと躱され受け止められ薙ぎ払われた。


「私は、私は……っ!!」

「終いにしよう」


喉元に始解もしていない斬魄刀が突きつけられる。頬は涙で濡れ、体は怒りと悲しみと憎しみと疲労でガタガタと震えが止まらなかった。元柳斎先生は、きっと、私と同じように記憶を視て、それでも父の弔いもせず弁明もしなかったのだ。それが何よりも悔しくて、だけど終わった事件に後から何を言っても無意味なことはよくわかっていた。



(2018.07.22)


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