「行こう、黒崎」

「一護って呼んでくれねえのか?」

「……ふふっ、すまない。行こう、一護」

「ああ!」


洞窟の出入口、お互いの両の掌を合わせて、見つめ合う。一度深呼吸してから、同じ方向を見据えて同時に地を蹴った。向かうところはただ一つ、復讐の場・瀞霊廷。いつも通り侵入には難なく成功し、適当な屋根の上に降り立つ。


「怜香、まじで無理だけはすんなよ」

「わかっている。だけど、多少は許して欲しい」


初めて黒崎と瀞霊廷へ乗り込んだ日のことを思い出した。あの時もこんな風に、屋根の上で黒崎は私を抱きしめて、心配してくれたんだったな。ついこの間のことのように思い出せるそれに少し頬が緩み、緊張が解けたような気がした。そっと口付けを交わし、目的の中央四十六室へと歩き出した。


「吹き荒れろ、闇風」


闇風を戦闘モードへと切り替えると、抑え込まれていた霊圧が一気に溢れる。これできっと全員が私たちが攻めてきたことに気づいただろう。目の前の中央四十六室構成員たちは慌ただしく戦闘準備や連絡をしており、ここへ隊長たちが来るのも時間の問題だ。


「お前も頼む、最後の戦いだ。大地に轟け、藾枷」


詠唱破棄で高等鬼道を放つ。建物は崩れ、瓦礫の下敷きになる奴らもいた。ほとんどが慌てふためき右往左往し、抵抗出来ぬまま倒れていく。その光景に自然と眉間にシワが寄った。チラリと見た黒崎も同じような顔をしていて、巻き込んではいけなかったのかもしれないと、後悔した。


「紅藾一章、赤ノ電光」


三叉の杖になった藾枷を顔の前まで持ってきて、祈るように唱える。右から左へひと振りすると先端にまとった赤い電流が放たれ、それに当たった奴らは重力のまま地面へ崩れた。
……四十六室の壊滅は、赤子の手を捻るかのようだった。


「……呆気ねえな」

「まあ、非戦闘員だからな。本番はこれからだ」

「ああ……そうだな」

「一護。何度も言うが、私に何があっても、一護は手を出さないでくれ」


顔を顰めて、嫌々頷く黒崎。貴方と出会わなければ、と思ったことも多い。だけど、それでも。私は黒崎と出会えて良かったと心から思うんだ。
一人、また一人と、死神が集まってくる。その中にはもちろん隊長や副隊長、席官も多い。辺りを見渡して、前に腕を伸ばして三日月状の闇風を縦に構えた。


「闇に射る」


号令と共に、無数の霊気でコーティングした風の矢が放たれる。黒崎と背中合わせになってそのまま一周すると、視界が晴れた頃には上位席官以上の死神しか立っていなかった。何か作戦でもあるのか、生き残っている死神たちは配置につくかのように瞬時に移動した。


「怜香」

「どうした?」

「必ず、生きて帰ろうな」

「……ああ」


黒崎の表情は見えないけれど、合わせた背中から強い意志が溢れている。それに酷く安心して、少し頬が緩んだ。死神たちが向かってくる気配は今のところなく、ひたすら膠着状態が続く。それが破られたのは、カチャリと小さな音を立てて刀を下ろした春水さんだった。


「もう、やめよう、怜香ちゃん」

「春水さん……」

「僕も怜香ちゃんと戦うのは気が進まないよ」

「十四郎さんも……」


眉を下げ、悲しそうに、寂しそうに私を見る二人。遠い昔に遊んでもらったことや修業に付き合ってもらったこと、お茶をしたこと……たくさんの記憶が蘇っては、消えていく。それでも私は、二人の思いには応えられない。ごめんなさい、と小さく呟いて、両手の武器を強く握り直した。



(2018.06.26)


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