束の間の休息。もうすぐ、この復讐劇も幕を閉じるだろう。いや……寧ろ、終わらせなければならない。明日に差し迫った復讐の日に向けて、さらなる作戦を話し合おうと黒崎に言われたのだけれど。


『……黒崎は、やはり防御に徹してほしい』

「何でだよ!ここまで来たからには、俺だって戦う覚悟は出来てんだ!」

『それでも、私自身の戦いなんだ。黒崎が背中を護ってくれるだけで、独りで戦っていた頃とは比べ物にならないくらい戦いやすいと感じている』

「っ、怜香……」


真っ直ぐ目を見て伝えると、渋々だけれど納得してくれた。私自身の戦いということも本当だけれど、それ以上に……。
正面に座っていた黒崎は、私の隣に来てぎゅっと手を握った。同じように握り返すと、黒崎の言う覚悟がひしひしと伝わってきた。


『ありがとう、一護』

「……!」

『貴方に出会えて、本当に良かった』

「なに……言ってんだよ、そんな、」


黒崎の頬に手を寄せ、そのまま唇を重ねた。不思議と恥ずかしさは微塵も感じなかった。
ああ、何て幸せなんだろう。好きな人が隣にいて、同じように私のことを想ってくれている。言葉を交わせる、触れられる、笑い合える。父はきっと、虚討伐後はこんな風に幸せに笑って過ごして欲しかったんだろうなと、思う。
ただひたすら、幸せを噛み締めるように、押し当てただけのそれを、ゆっくりと離す。そっと黒崎を見上げると、悲しそうな表情をしていた。


「怜香、俺……。もし怜香が、」

『ダメだよ、一護。貴方は生きて。私も精一杯生きるから』

「……っ」

『それより今はもっと楽しい話をしよう』


できる限りの笑顔を作って、黒崎に向ける。ちゃんと笑えていた自信はこれっぽっちもない。だけど黒崎はそんな私に応えるように笑みを向け、話題を変えてくれた。体を寄せ合って、指を絡ませ、他愛のない会話をする。これがもう最後かもしれない。


「そういや、怜香のその口調ってさ」

『ん?』

「作ってる?んだよな?」

『ああ、そうだな。目的を見失わないように、わざとこの口調にしているんだ』


何も知らなかった頃は、ちゃんと、と言うと変かもしれないけれど普通の女の子としての口調だった。父のことを知ってからは、復讐という目的のために、決意として男勝りな口調に変えた。最初は本当に違和感しかなかったな、と感傷に浸る。


「時々、口調変わるだろ?俺あれ好きだからさ、全部終わったら、元の口調で話してくれよ」

『そのつもりだ』


全てが終わるということは、つまり。思うところはあったけれど、水を差すのも悪いから何も言わなかった。願わくは、復讐を遂げたあとも黒崎とこうして笑っていられたら……。



(2018.07.20)


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