次の日、私と黒崎はこれからのことを話し合っていた。まずは先延ばしにしていた虚退治からだ。きっとあれは、愛染の失敗作だ。討伐報告はなかったことから今もまだどこかに潜んでいるはず……。なぜ父の一件以来消息不明になってしまったのかはわからない。


「黒崎なら、見つけられると思う」

「俺が?」

「私に気づいただろう?闇風を発動していれば、そう簡単には見つからない。黒崎が気づくまで、隊長にさえ気づかれなかったんだ」

「怜香がそう言うなら……探してみるか」


ただ問題は、奴がどこに隠れているのかということだ。誰かに成りすまして生活している、と考えるのが妥当だろうか。そうなると父のように死神に成りすますのは厳しいかもしれない。ふと顔を上げて黒崎を見ると、難しい顔をして私を見ていた。どうしたのか尋ねてみると、私のほうがよっぽど難しい顔をしていたようだ。


「見当はついてるのか?」

「いや……全く。ただ、流魂街の住人に成りすましている可能性が一番高そうだ」

「確か、人をそっくりそのままコピー出来るんだったよな?」

「そうだ。数字の大きい地区を中心に探っていこうと思う」


わかったと返事が来て、すぐに私たちは流魂街へ向かった。昨日のうちに虚の討伐にあたって最小限の情報だけ黒崎に話しておいた。父が殺されたことは言っていないが、何となく黒崎は察しているような気がした。そういう勘が鋭い。程なくして流魂街に着き、80地区の酷さには何の言葉も出なかった。


「……ひでえな」

「そうだな」

「どこもこんな感じなのか?」

「まぁ、似たり寄ったりだろうな。どこも貧民区に違いはないが……数が大きい地区の方が治安が悪い」


闇風で隠れながら適当に歩いてみる。黒崎は特に何も感じていないようだが、辺りを見渡しながら険しい顔をしている。盗みや暴行を目の当たりにしながらも見て見ぬふりをして進み、広すぎてキリがないということである程度の時間見て回ったら次の地区へ行くことにした。


「黒崎、変な気配とか違和感とか、ないか?」

「うーん……特に変わった感じはねえな」

「そうか……」

「……必ず見つかる。見つけてみせるから、安心しろよ」


ぽんぽんと頭を撫でられる。そんなに落ち込んでいるように見えたのか、笑いかけられてぎゅっと手も握ってきた。胸の奥が締め付けられるような感じがして黒崎から目線を外し、前を見据えた。黒崎の言葉を頭の中で反復させて自分自身にも言い聞かせた。何が何でも見つけて仇を討つと。


「そろそろ休憩にしようぜ」

「そうだな。もう夕方も近い」

「やっぱそう簡単には見つかんねえなあ」

「ああ……あの時も、」


ハッとなって言葉を止めた。どうしたのか訊き返されたが、何でもないと首を振る。吐き出そうとした、吐き出してしまいたかった。苦しかった、黒崎ならわかってくれるんじゃないかって期待した。そう気づいて、木陰に座って目を閉じた。隣に黒崎も座ってきたけれどそれ以上はやはり何も詮索してこなかった。


「……くろさき、」

「怜香?どうした?」


話そうとして、黒崎を見ると、とても優しい顔をしていて。だからなのか暗い話をするのは別の機会にしようと決めて、そう思うとなんだか少し心が軽くなった気がした。気が抜けてくすりと笑うと、今度はきょとんとした表情になる。無性に黒崎に触れたいと思った。


「うわっ!?本当にどうしたんだよ、怜香」

「わからない、でも何だか、」

「怜香?」

「何だかとても嬉しくて。黒崎が、ここにいる」


思い切り、ぎゅっと黒崎に抱きついた。衝動的な自分の行動に戸惑ったけれどそうせずにはいられなくて。黒崎は驚きながらもちゃんと私を受け止めてくれて、同じように背中に手を回してくれた。ああ……すごく、すごく安心する。さらに腕に力を込めると、ゆっくりと髪を撫でられる。穏やかな時間だった。



(2018.06.10)


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