「佐藤くんどうしたの?」
厨房の端っこでいつも通りにしていたはずなのに、相馬は俺の異変に気付いて話し掛けてきた。
「……、別になんでもないけど」
「うっそだ〜!轟さんにまた店長とのノロケ話聞かされたんでしょ?」
どこか楽しそうに黒い笑みを浮かべて話す相馬。
「……」
「図星って顔してるよ」
ふふふっと笑う。どうせ最初からわかってた癖に。こいつの情報網はどこから来ているのだろうか。
「それは内緒だよ?」
「……、人の心を読むな」
頭をいつものようにフライパンで叩く。¨痛っ¨とか言っているけれどそんなに強く叩いたつもりはない。
「それで佐藤くんはいつまで轟さんのこと好きでいるつもり?」
「………」
いつまでって、そんなこと俺だって分からない。あんなバカにうっかり惚れてしまったんだ。諦めるとかそういう気持ちも全くないし。
「わからない」
そう答えたときの相馬の顔がどこか陰りがあったように見えた。
「僕なら轟さんの秘密持ってるから、ちょっと話せば佐藤くんと付き合うことなんて簡単だよ?」
「そんなことしてまで轟と一緒に居ようとか思わない」
「そっか〜。……なら、さ。僕と付き合わない?」
「は?」
本当にびっくりして素っ頓狂な声が出てしまった。
「いや、その佐藤くんの宥めになればいいかな?なんて思ったりしてさ。……ほら!僕なら男だし酷く扱っても大丈夫だしさ?」
すんごい勢いで捲し立てて喋る相馬に後半なにを言っていたか聞き取れなかった。
「まぁ、佐藤くんがいいならなんだけどさっ」
「…………」
俺はなんて言ったらいいか分からず無言になってしまった。さっきまで喋り続けていた相馬も黙ってしまったため、厨房にはなんとも言えない空気が漂う。
「……ははは!冗談だよ?本気にしないでよ佐藤くん」
その空気を破ったのは相馬で。冗談と言った相馬の顔はどこか傷付いているようにも見えた。
「あ、えっと相馬……?」
「じゃあ、僕外にゴミ棄ててくるね」
さっさとゴミを持って、外へと向かう相馬。でも、さっきの昼休みに俺がゴミを棄てたはずだから棄てるほどのゴミが袋に入っているとは思えない。俺は外へと向かった相馬を追いかけた。
来てみれば相馬は、袋を持ったまましゃがみしゃくりあげていた。
「お、い?」
声を掛けたことでびっくりした相馬は勢いよく振り返り俺の顔を見て、更にびっくりしていた。
「なんで佐藤くん…?」
「いや、さっきゴミ棄てたからたぶん袋にゴミ入ってないと思って」
「ああ、そうなんだ」
どこかぎこちない会話になってしまう。
「えっと、その。大丈夫か?」
相馬は何がって顔をしているから、俺が目元を拭おうとしたら手を叩かれた。
「なんで優しくするかな。……言うつもりなかったのに」
「なにがだ?」
「……僕は佐藤くんが好きなの。轟さんのことで落ち込んでる佐藤くんにつけ込もうとしてるのに。この鈍感」
相馬が俺のことそんな風に思っているなんて知らなかった。……そりゃ知られないようにするか。
「まっ、いいや。付き合ってくれるなんて思ってなかったし。」
言ったあとの相馬は何処か吹っ切れた笑顔を浮かべた。
(ドキッ)
なにをドキッとしているんだ、俺は。
「諦めるつもりないからね!覚悟してよ、佐藤くん」
そうしてまた笑顔になった相馬に俺の胸は高鳴ったままだった。
「じゃあ、仕事に戻ろうか。キッチンの俺等が仕事しないと」
「あぁ……」
この胸の高鳴りは何なんだ。轟と居るときと似てはいるけど……
「佐藤くーん?」
厨房から相馬の呼ぶ声がする。早く行かないと怒られる。
「今から行く」
この胸の高鳴りを抑えて。
――――佐藤くんが相馬さんに恋に落ちるまであと……