誕生日










「はぁ……」


携帯を開いて確かめれば、時刻はとっくに過ぎてた。別に特に気にしてた訳じゃないし、彼がそういった行事を一々気にしてる性格だとは思えないし。……て言うのは俺のちょっと意地だったりして。恋人という関係になってから初めての俺の誕生日だったから何処か期待してたのも事実だ。

(あの化物が誕生日とか記憶してるはずないか)

何処か納得するが寂しい気持ちの方が優る。つか、波江にさえ言われてない気がする。まぁ、あいつは弟一筋だから仕方ないか、なんて思うけどますます惨めになってきた。誰にも祝ってもらえない誕生日は過ぎ、俺は仕事に没頭した。


気付けば寝ていたらしく、机に突っ伏していた。体が痛い。俺は手を組み伸びをした。体からポキポキと骨が鳴る音がして心地よい。携帯に手を伸ばせば、メールを知らせるランプが光っている。誰かと確認すれば相手は静ちゃんからで。用件を見れば

¨今日の6時、露西亜寿司に来い¨

相変わらずどうして上から目線なのか腹立たしいが、それでも頬が弛むのは惚れた弱みだと信じたい。



約束の時間通り俺は露西亜寿司へと向かう。足取りが軽いのはきっと気のせいだ。露西亜寿司に着いたのは30分も早く、俺自身びっくりした。それ以上にびっくりしたのは既にそこに静ちゃんが立っていた事だ。足元を見ればタバコの捨て殻が数本落ちており、だいぶ前から待っていたことがわかる。

「来たか、だいぶ早いじゃねーかよ」

「…うっさい、いいでしょ。静ちゃんだってだいぶ早くから来てたみたいだし?」

ニヤニヤしながら言えば、静ちゃんは何処と無く赤くなった。でも、その顔も直ぐに戻ってしまった。なんだ、つまんないのー。

「誘った俺が早く来るのは当たり前だろ。……っと、手前早く来すぎなんだよ。準備できてねーだろ」

「準備って何の?」

「まぁ……後で分かる。とりあえず、あと20分くらいそこらへんうろうろすんぞ」

そう言ったあと、静ちゃんは俺の手を握り歩き始めた。

「ちょ!静ちゃん、手!」

「あ゛?今更ここで手前と手握って歩いたってなんも思われねーだろ」

「そうかもしんないけど!」

「けど、なんだよ?」

「……、恥ずかしいじゃん」

言った途端ガバッという効果音がつきそうな勢いで静ちゃんが抱き着いてきた。

「手前、まじ可愛すぎんだろ!このまま持ち帰りてぇ……けどあいつ等準備してるし、畜生……キスだけならいいか、いやでも……」

聞いちゃいけないことも聞こえたけど、そこはスルーで。つか、さっきから聞こえる準備ってなんのことな訳?気になる。

「さっきから言ってる準備ってなんのこと?」

「……、そうだった。そろそろ戻るぞ」

静ちゃんはハッとして思い出したように呟いた。

「ちょっと質問に答えてよ」

俺の問いには無視し、元来た道を戻っていく。気付けば目の前には待ち合わせしていた露西亜寿司。

「手前はここでちょっと待ってろ」

静ちゃんはそのまま露西亜寿司へと入っていってしまった。待ち合わせしといて勝手に歩き回った上に放置とかなんなの。こんな存外な扱い受ける為に来た訳じゃないんだけど。モヤモヤした想いを抱えながら待っていれば静ちゃんが引き戸から顔を出した。

「入っていいぞ」

「ちょっと、俺……」



    「誕生日おめでとう!」



パパーンとクラッカーが響く音とそこに集まっている顔見知りの奴等が声を揃えて俺を祝う言葉を発した。


「え、は?…つか俺の誕生日って昨日のはず……」

確かに昨日のはずだ。誰からも祝われず寂しい思いをしたのだから。こいつ等人の誕生日間違えて覚えているのか?

「は?手前は何言ってんだよ。仕事のし過ぎで日付感覚も無くなっちまったのか?」

「そうだよ、臨也。君はもうちょっと休むことを勧めるよ」

携帯の日付を確認すれば、5月4日と表示されていた。可笑しい、その日付は昨日表示されていたはずなのに。新羅の言う通りもうちょっと休まなきゃいけないのかもしれない。

「臨也、誕生日おめでとう」

「あ、ありがとう、ドタチン」

後ろの方でドタチンの仲間が¨イザイザ誕生日おめでとう〜¨¨おめでとうッス¨とか騒いでいるのが見える。その他にも来良組の三人に新羅と首無しライダー、双子の妹たちも居る。

「えっと、なにこれ?」

「見てわかんねーのか手前は。手前の誕生日会だろうが」

「そうそう!静雄がやろうって言い出してね〜」

「ちょ、新羅!バラしてんじゃねーよ」

怒鳴るように言った静ちゃんの顔は赤く染まっていた。

「静ちゃん……!」

「いや、どうせなら大勢で祝った方がいいかと思ってよ」

俺は静ちゃんに抱き着いた。こんな俺思いな恋人を持てたことに感謝するよ。狩沢あたりがヒューヒューとか囃し立ててるけど俺はそんなことなど気にせずぎゅうぎゅうに抱き着いた。

「そろそろ離せ、臨也」

「えー、やだ」

俺は拗ねた風に言えば、静ちゃんが耳元で囁くように言った。

「なら、今晩覚悟しとけよ」

俺は直ぐ様離れた。たぶん顔は真っ赤なんだろう。そんなのお構い無しに奥から寿司を持ったサイモンが現れた。

「オー、臨也!今日ハ臨也の為に大トロ一杯仕入レタヨ!」

「本当か、サイモン!いい仕事するじゃないか」

「チッ、空気読めよ」

「静雄何言ッテル?空気は吸ウものダヨ」

「じゃあ、サイモン大トロ持ってこれるだけ持ってきて!」

「ハイヨー」

サイモンは奥の調理場へと戻っていった。それを合図にか、どんちゃん騒ぎが始まった。俺はたらふく大トロだけを食べ、幸せだ。

どんちゃん騒ぎをしているなか静ちゃんに連れ出されて、静ちゃんの家へ行き宣言通り覚悟を決めたのであった。次の日はもちろん腰が痛くて立てずに静ちゃんの家にお世話になった。