臨也からキスを拒否られたあの日から、臨也が姿を消した。


消えてから既に1ヶ月が経とうとしている。俺も初めの1週間は必死に捜したが全然見つからなかったし手掛かりさえなかった。臨也の事だから新羅か門田の所にでも行ったかと思ったが二人の所には来ていないみたいだ。ただ、新羅の家に行った時、仄かに臨也の匂いがした。たぶん前に臨也が来たときに残った匂いだとは思うが、なんて考えてれば携帯が震えた。携帯を開けば¨着信 新羅¨と表示されていた。臨也が見つかったのかと思い、俺は急いで電話に出た。

「……もしもし」

「あ、静雄?」

「なんだよ」

「やぁやぁ、元気?」

新羅はどうでもいいことを聞いてきてなかなか本題にいかない。

「んなこといいから用件言えよ」

「そうカッカッしないでよ。……臨也に関して大事な話があるから明日の午後6時に来てほしい」

「臨也に関して?見つかったのか?」

臨也と言う単語を聞いて、俺はつい興奮した。あれほど探していた臨也に会えるなんて思うとなれば嬉しくてたまらない。

「うーん、それは明日家に来たときに言うから」

新羅はそうもったいつけた。それでも明日になれば臨也についての情報が入る。そして会えるかもしれないと思えば気分が浮上した。




気づけば新羅との約束の時間になった。一日中仕事に身が入らずそわそわしていて、トムさんにはちょっと怒られた。新羅のマンションに来てみれば、ちょうどセルティが出てきた。

「セルティじゃねぇか、どうしたんだ?」

¨新羅に追い出された¨

セルティはいつも通り、PDAに文字を打ち込む。ヘルメットで表情は見えないが、苦笑しているように見えた。

¨大事な話があるらしくて¨

「たぶん俺のせいだわ。悪いなセルティ」

¨全然構わない、私はドライブにでも行ってくるからゆっくりしていってな¨

そう打ち込んだセルティは愛車に跨がって走り去っていった。
新羅が居る部屋へと向かっていく。柄にもなくドキドキしながらインターホンを鳴らせば中から新羅の慌てる声が聞こえた。

「はいはい!」

「……俺だ」

「あ、静雄?案外早く来たね」

「……っ、いいからさっさと開けろよ」

「ちょっと待って。今開けるから〜」

そう言い新羅がだんだん玄関へと近づいてくる音がした。ガチャと扉を開いた。俺が入ろうとする前に新羅は出てきて扉を閉めてしまった。

「おい、なんでお前が出てきてんだよ」

「ごめんごめん、静雄にちょっと話があってね」

「…、なんだよ」

「殴らないことと物を壊さないことを約束してくれれば話すよ」

「んだよ、それ!」

「約束しなければ、臨也についての話はなかったことにしよう」

そう言った新羅の目は真剣そのものだった。臨也についての話を聞きに来たのに聞けなきゃ意味がない。俺は仕方なしに頷いた。

「ありがとう、静雄。……えっと、絶対殴らないでね」

「わかってる、約束しただろう」

「そうだね。……1ヶ月前から臨也を匿ってた」

それを聞いた俺は頭が真っ白になった。それと同時に怒りも湧いてきた。新羅を殴りたい衝動にも駆られたが約束だから我慢した。その代わりに自分の手を強く握った。

「今も僕の家に居る。」

この扉を隔てた一枚向こう側に臨也がいる。

「……会わせてくれるのか?」

「そのために静雄を呼んだんだ。ただしさっきと同じ条件を呑めないなら会わせることはできない」

臨也に会えるならそんな条件なんて呑むに決まってる。

「わかった」

「よかった。……臨也はたぶんなにか勘違いをして静雄を避けてるんだと思うんだ。僕から話すのは違うと思うから本人から直接聞いて」

新羅はホッとしたあとに、困ったような顔をしてそう告げた。

「悪ぃな、迷惑かけちまって」

「全然構わないよ。てか、こんなの高校時代からずっとじゃない」

「確かにそうだな」

俺と新羅は苦笑した。
そして、ようやく新羅のマンションへと入ることができた。新羅は俺をリビングへと通した。

「さっきも言ったけど、殴らないことと物を壊さないこと。これは絶対守ってよ」

「わかってるよ」

「じゃあ、僕は臨也を呼んでくるから」

そう言って新羅は臨也が居ると思われる部屋へと向かっていった。その間の俺はずっとそわそわしていた。変にドキドキして居ても立ってもいられなかった。