楽しみにしてる



※乙女臨也








「静ちゃん静ちゃん、静ちゃん静ちゃ、ん」

「…うっ、」


俺の上には何故か臨也が居て、俺はあいつの細い腕によって首を絞められている。
何故こんなことになってるのか全く分からない。
気付けば臨也は俺の上に居て、首を絞められていた。
首を絞めている臨也はいつもと違って切羽詰まった顔で今にも泣き出しそうだ。
こいつの事は嫌いだが、こんな顔をしてるやつを殴るほど俺だって落ち潰れちゃいねぇ。
とりあえず、この手をなんとかしなきゃ俺が死んじまう。

「この手離せ、よ」

「死んでよ、静ちゃん。静ちゃん」

臨也はその言葉を繰り返して俺の言葉に耳を傾けようとしない。
手荒な真似はしたくなかったが、このままじゃ死ぬ。
仕方ねぇんだよと決め俺は臨也の鳩尾をめがけて拳を入れた。
何時もなら躊躇いもなく殴れるはずなのに今日はなんか違う。
臨也の様子が可笑しすぎる。

しかし、こいつどうしよう。
殴ったせいで気絶しちまったし。
ここに放置ってのは、危険だし今のこいつを一人にするのはなんか気がひける。
仕方ないが俺のアパートに運ぶか。
俺は気を失った臨也を抱えて自宅へと向かう。


俺はアパートに着き臨也をベッドに寝かした。
いつもと違う幼い寝顔に何故かドキドキして、気づいたら俺は臨也の髪を鋤いてた。
¨髪の毛さらさらだな¨なんて思ったりして、我に返った時は自分がとった行動が不思議で仕方なかった。
臨也を見てても仕方ないと思い、俺は夕飯の準備をし始めた。
夕飯ができるかの時に、ベッドの方から音がした。臨也が起きたのだと思い、ベッドに向かった。

「おい、大丈夫か?」

¨こくん¨

臨也は俺の言葉に頷きはしたが、寝起きで頭が働いていないようだ。

「夕飯準備したが、食えるか?」

「あ、うん」

だんだん意識が覚醒してきたのか臨也は周りをきょろきょろとしだした。なんか今日の臨也は別人のように違う。

「部屋汚くて悪かったな、とりあえず飯食うぞ」

「え、は?静ちゃん?」

臨也はまさしくポカーンっていう顔をしながらこちらを見ていた。そのうちだんだん顔が赤に染まっていく。

「なにお前熱でもあるわけ?」

俺が臨也のおでこに手を宛てようとすれば、バシッ!と叩かれる。

「あ、ごめん。悪気が合った訳じゃ……」

「俺もいきなり悪ぃ、とりあえず飯食うぞ」

「あ、うん」

素直に謝る臨也にどぎまぎしながら、俺もつい謝ってしまった。
後ろから着いてくる臨也は、どこかしょんぼりとした雰囲気でちょこちょこと着いてくる。
なんか小動物みたいでかわいいななんて思ったり。
飯を食べてるときは俺も臨也も無言のまま食べている。
そりゃ、昨日まで殺し合いをしてた奴と仲良く食べろなんて無茶な話かもしれない。

「ごちそうさまでした」

「………でした」

皿を流し台に持っていき、洗い始める。後ろで臨也がわたわたしている。

「俺も手伝うよ」

「いや、お前はゆっくり休んでろ。終わったらさっき話し聞くから」

臨也はその言葉を聞くと、¨びくっ¨と体を震わせたあとベッドの前に腰かけた。
洗い終わったあと、俺は臨也の前に座った。
臨也はこちらをちらちら見たり、目を逸らしたりして不思議な行動をとっていた。

「んで、話に入るけど。いきなりどうした?なんであんな泣きそうな顔してた?」

「………」

臨也はなにも答えず俯いたまんまで。何十分たっても口を開かない臨也。

「気持ち悪がれると思うから、聞かない方がいいと思う」

ようやく口を開いたと思ったら、こんなこと言いやがった。

「気持ち悪いとかは俺が決めることだ、勝手に決めつけてんじゃねぇよ」

その言葉を聞いた臨也は、決意したのか話始めた。

「驚かないで聞いてよ。……俺、静ちゃんが好きなんだ。ずっと前から、たぶん一目惚れで。ちょっかいだせば構ってくれる事が嬉しくて……でも、それだけじゃ満足しない自分も居て、気づいたら静ちゃんの首絞めてて」

臨也からの告白にびっくりしてなにも言えなくなるが、不思議と気持ち悪いとかは思わなかった。寧ろ嬉しいと感じる自分にびして。

「いきなりごめん、気持ち悪いでしょ?」

「気持ち悪くはねぇよ。ただないきなり言われて混乱はしてる。」¨やっぱり¨と臨也はしょんぼりして俯く。

「だがな、嬉しいと思ってる自分も居んだよ。たぶんこれからもっとお前のこと知れば好きになる可能性はあるんだよ」

その言葉に臨也は俯いていた顔を上げた。

「その言葉、ほんと?」

「嘘なんかつくかよ」

臨也の顔がぱあああと輝くような笑顔になる。それを見て、かわいいって思ったりもっと笑ってて欲しいって思うのは俺が臨也を好きになりかけているのかもしれない。
それに気付いた俺は臨也を引き寄せて抱き締めた。

「え、ちょ静ちゃんどうしたの?」

慌てふためる臨也を見て、やっぱりかわいいと感じたり。

「これから俺を好きにさせてみろ。楽しみにしてるから」

ニヤッと笑えば臨也の顔がどんどん赤に染まっていく。

「分かったよ、がんばる」

臨也のその返事に満足して俺は更に抱き締める力を強めた。