久しぶりに池袋に行けば、エアコンの名前の様な彼に会った。
俺の記憶はそこから途切れている。
頭がクラクラすると思いながら目を開けば全く見覚えのない部屋。
目の前には床があり、立ち上がろうと体を動かしてみれば手足が縛られていて動けない。
誰だよ、こんなことするやつ。
誰だか分かったらこの世に居られないくらいボロボロにしてやる。
キィー……
音がする方へ目を向ければ黒いローファーに水色ぽいズボンが見えた。
このズボンって来良の制服なんじゃ……
「ようやくお目覚めですか、臨也さん」
その声に聞き覚えがある、顔を上げてみたら池袋で最後に会った竜ヶ峰帝人くんが居た。
「気分は如何ですか?」
「はっ、最悪だよ。君こんなことしてどうしたいのさ?」
「特にこれってことは。ただ非日常を味わいたいんですよ」
確かに彼は非日常を求める故にたまに可笑しな行動をとる。
別にそれに関して俺は口を挟むつもりはないけど、自分が巻き込まれたとなると話は違うよね。
「非日常を求めることは悪くないよ、でもなんで俺を巻き込むかな〜?」
「臨也さんが適任だからですよ」
彼は無表情のようなうっすら笑みを浮かべた。
そして彼はだんだんと俺の方へと近づいてくる。
彼はいつの間にか俺の目の前に居て口と口があと数pで付くか付かないかの距離だった。
「なにがしたい、のさ?」
「声ちょっと震えてますね、かわいいです」
ふふっと笑って彼の唇は俺の唇と重なっていた。
いきなりのことで、何が起こったのかわからない。
ただ一つ、こんな時でも俺は静ちゃんのことを考えていた。
そういえば、池袋に行ったの静ちゃんと約束して会うためだとか約束破ったから静ちゃん怒ってんのかなとか。
そんなことを頭の片隅で考えてると、にゅるっと口の中に何かが入ってくるのが分かった。
「…んっ、は」
それは目の前に居る帝人くんの舌で必死に追い出そうとすればするほど絡み付いてくる。
「臨也さん、すっごくかわいいです」
彼は俺の服の中に手を入れようとしてきた。
だが、そこで
バンッ!!!!
部屋中に響き渡る音。
発信源を見ればそこにあるはずの扉が無くなっていて、金髪の彼が立っていた。
「はぁ、時間切れですかね。残念です」
そう言い帝人くんは俺から離れていった。
「おいこら手前ぇ、俺の臨也になにしてんだよ!!!」
「まぁまぁ、落ち着いてください。キスしかしてませんから」
その言葉に静ちゃんが更にキレたように見えた。
「キスしかしてねぇだと?キスだって充分だろうが。まじぶっ殺す、許さねぇ殺す殺す殺す殺す」
「し、静ちゃん落ち着いて!殺しはしないでよ。苦しめるのは俺がやるんだから」
そうだ。こんな仕打ちを受けといて俺が黙ってる訳ないだろ。絶対俺の手で帝人くんをくるしめてやるんだから。
そういう意味を込めて俺は帝人くんを睨み付けた。
「まぁ、とりあえず僕は帰りますね。楽しかったですよ、臨也さん」
語尾にハートでもつくかのように言い去った帝人くんはここから出ていった。
そのあとも静ちゃんは怒りが納まらないのかずっとイライラした様子で居た。
だが、俺を見た途端にそのイライラの雰囲気がどっかにいった。
「おい臨也!怪我はねぇか!?」
そう言いながら俺の手足を縛っていた縄をほどいてくれた。
「大丈夫、静ちゃん助けに来てくれてありがとう」
「いや、もっと早く来れたらよかったんだが場所がわかんなくてよ……」
「それでも来てくれただけで嬉しいよ」
静ちゃんは俺を優しく抱き締めてくれた。
そのあと、帝人くんとのキスを帳消しにするかのように長く長くキスをしてくれた。
そのあと部屋から出て、手を繋ぎながら疑問に思ったことを口にしてみる。
「どうしてあの場所がわかったんだい?」
その言葉を聞いた途端、静ちゃんが少し焦りだした。¨いや、そのだな…¨と言いながら髪の毛をぐしゃぐしゃにして言い出した。
「手前のコートに発信器つけてあんだよ、気づかないような小さいやつ。いつでも何処にいるかわかるように……」
静ちゃんはバツが悪そうにこしょこしょと言い放った。
「なにそれ、ストーカー?」
「ああ゛?手前を心配してるからに決まってんだろ」
「わかってるよ、ありがとうね」
なんて言えば静ちゃんは照れたように¨おう¨と言い返した。
俺ってば愛されてるなーと思いながら静ちゃんと池袋に帰って行った。