匂い








¨ふわっ¨

いつもの池袋と違う匂いがする。
なんだ、この匂いは……
知ってるけど思い出せない
ああああ、苛つく
俺は思わず髪の毛をぐしゃぐしゃとかき混ぜた。
そうだ、考えないでおこう。


仕事が終わり、家路につこうとしたら黒いコートを着たあいつが居た。
ああ、そうだあいつの匂いだ。
あいつが来ると池袋中があいつの匂いでいっぱいになる。
そのせいで今日一日ずっとイライラしてたんだ。

「いーざーやーくーん」

「静ちゃんじゃない、どうしたの?」

声をかければ、振り返ってこちらを見る。そのときでさえ香る臨也の匂い。
この匂いはイライラさせるが同時に落ち着く。
矛盾してんのはわかってんだがそんな感じがするんだ。
自分でも何言ってんだかわかんねぇ。

「なんで手前池袋に居るんだよ!?」

「なんでって、仕事だよ。静ちゃんに会いに来た訳じゃないから勘違いしないでよね」

一歩間違えればツンデレな台詞だがこいつは本心で言ってんだろ。

「仕事だろうが池袋には来んじゃねぇよ!!」

「なにその理不尽」

臨也は失笑気味にバカにしたように言い放った。

「手前が池袋に来ると、手前の匂いでいっぱいになるんだよ。そのせいでどんだけイライラしたか」

「え、なに?静ちゃん俺の匂いとか覚えてんの?つか、それ八つ当たりじゃなーい?」

その言葉に思わず赤くなった。赤い顔を隠すため俯く。
俺が臨也の匂いを覚えてるだと?確かに臨也の匂いだけはなんか他の奴等とは違ってすぐわかる。なんでだ?
……考えるのめんどくせぇ。
とりあえず、今日一日のイライラをこいつにぶつけなきゃ気がすまねえ。
バッと顔を上げたらそこに居るはずの奴が居ねぇ。

「じゃあ、静ちゃん!俺帰るから〜」

遥か遠くの方から聞こえてくる奴の声。逃げやがったのか、あいつ。

「おいこら!逃げてんじゃねぇぇぇぇ」

俺は大声で叫んだ。
奴を追いかけるように走ったが追い付ける距離ではなく臨也の姿は消えてしまった。

それから暫く池袋にはあいつの匂いでいっぱいだった。