¨ちょっと来い¨
朝早くからメールが届いたと思ったらこれだ。
なんでいつも上から目線なんだろうか。
それでも山手線に乗り池袋へ向かいシズちゃんの家に行こうとする俺は相当シズちゃんが好きみたいだ。
いつも通り合鍵で家へ入ろうとしたら玄関には仁王立ちしているシズちゃんの姿が。
「すいません、間違えました」
思わず玄関の扉を閉めてしまった。
閉めたはずの扉が開きそこにはシズちゃんの姿、
「手前、なに閉めてんだよ。さっさと入れ」
「思わず閉めたくもなるよ。なんで仁王立ちでいるわけ?」
「手前来るの遅くてよ、」
いやいや、メール見てから5分以内に準備して来たからね?
シズちゃんは俺をなんだと思ってんだろ。
どっかの誰かと違って化物じゃないんだから。
そのまま玄関に入り、リビングへと向かう。
テレビの前にあるどでかいソファに座って辺りを見回す。
何回来ても汚いしバーテン服が大量にある。
暫くするとシズちゃんが珈琲を持ってきた。
「それでなんのよう?」
「特に用事はねぇ」
「……、…はぁ!?」
朝早くに起こされて急いで来てみたら¨用事はねぇ¨って……。まじ意味わかんない、この化物俺をなんだと思ってんだ。どっかの誰かみたいにひまじゃないの!今日だっていっぱい仕事あったのにそれを後回しにして来てあげたのに用事がないって。声には出さず心の中だけで充分に悪態をつく。俺の優しさでしょ
「……帰る」
と一言残して立ち上がり玄関に向かう。
それまで、テレビをボーッと見ていたシズちゃんがこちらに顔を向ける。
「は?手前、今来たばっかだろ」
「俺だって暇じゃないの。用事がないなら帰って仕事する」
「仕事仕事って。お前仕事好きだよな」
「好きじゃなきゃあんな仕事続くわけないじゃん。つか、むしろ俺には天職だよ。そういうことで。じゃ、帰るね」
玄関の扉に手を掛けて出ていこうとすると、すぐ後ろにはシズちゃんがいた。
「帰んなよ」
シズちゃんにしては切迫詰まった声を出すから思わずドキッとする。
「なんでよ?用事ないんでしょ?」
シズちゃんから目を逸らし平静を装いながら答える。ちょっと拗ねた感じになってるのはきっと気のせいだ。拗ねてなんかない、ここ重要。
「用事がなきゃ手前に会っちゃいけねぇのか?顔見たいとか思っちゃいけねぇのか?」
「…、なにその口説き文句みたいなの」
さっきのでドキッとしたのに更にドキドキして俺はシズちゃんの顔が見れない。なんでこんな乙女になってんの俺。
それに、シズちゃんはずっと俺を見つめてる。
「見てばっかじゃなくてなんか言ってよ、シズちゃん」
「今日くらい傍にいろ。最近仕事ばっかでゆっくりしてねぇだろ」
確かに最近は仕事ばっかでゆっくりしてなかったけど……
そんなこと言われちゃったらさもう……
「仕方ないから傍にいてあげる」
「そうしろ」
シズちゃんは柔らかく笑った。その顔にまたドキドキして、今日来てから何回ドキドキしてんだよとか思いながら部屋に上がった。
「じゃあ、今日はシズちゃんが尽くしてくれるわけ?」
「ああ、いいぜ。料理だってマッサージだってなんだってしてやるよ」
やったと喜んでると¨もちろん夜の方も尽くすぜ¨と耳元で囁かれた。
顔が真っ赤になったなんて絶対ないんだから!