池袋。
日夜騒がしく忙しい、まるで生き物のように動き続ける街。
その街の中を、いつも通り漆黒の上下に身を包んだ折原臨也は、いつにない無表情さで歩んでいた。
精悍だが整った顔は、無表情さによって端正さが際立ち、能面を思わせる。
大通りを歩み続けてる折原臨也の視界に、池袋の喧騒が、様々な人が映る。
無色の集団の創始者たる少年。
人を愛する妖刀を宿す少女。
将軍と称され、黄色を率いた少年。
首のない女。
首のない女を愛する男。首を愛する少年。
首を愛する少年を愛する少女。
1つの車に同乗した4人の男女。
隣県から時折訪れる暴走族の総長の青年。
創設者を利用しようとした歪んだ蒼い少年。
暴力団の直系たる少女。
戦闘に快楽を見出している女性。
ついでに、折原臨也の実妹である双子。
けれどその中に――「彼」は居ない。
折原臨也が、池袋から姿を消した原因が。
折原臨也が、池袋で喧騒ではなく闘争と逃走に身を投じた原因が。
どこにも居ない。
(当たり前なんだけどさ)
人混みに上手く紛れ、知人の誰一人とも関わらず進みながら、思う。
そう、「彼」がこの街に居ないことは当たり前だ。
何故なら。
(俺が殺したんだからね)
しかも、折原臨也にしては珍しく、直接手を下して。
考え得る全ての謀略、全ての力、全ての狂気で以て――情報屋は喧嘩人形を殺した。
死に沈んだ「彼」。
ようやく消えた唯一嫌う相手。
しかし「彼」は――平和島静雄は、命尽きてなお、折原臨也の中から消えなかった。
折原臨也が今日、予定もなく池袋の中へ目を向けるのも。
当てもなく雑踏を歩み続けるのも。
全て全て、平和島静雄が頭から消えないが為だった。
(なんでだろ……なんで消えないんだろう)
消すために殺した。
殺せたから消せる。
そう思ったにも関わらず、平和島静雄は消えなかった。
最良の手を選んだと思ったら、最悪の手段だったような、そんな気分。
あまりに不愉快で不可解な思いに、折原臨也の秀麗な顔が歪む。
「……死んだ後も俺の思い通りにならないとかさぁ」
そういうところが大嫌いなんだよ、と。
弱さを滲ませる揺らいだ声は、歩み続ける雑踏に溶け、消えた。