「…眠い」
学校に着いて開口一番、そう呟いた。
春の日差しというものはどうしてこうも眠気を誘うのだろうか。
桜の花弁を散らせる風も今の自分にとっては人を眠らせようとしている罠にしか感じられない。
きっと自分の様に思っている人物も少なくないのだろうと考えながら
新しいクラスが表示されている紙で自分の名前を確認すればその教室へと足を運んだ。
今日から二年生、新しい生活に胸を躍らせ…はしない。
---
「まさか今年も全員同じクラスになれるなんてなー」
「ああ、俺も絶対離されると思ってた。棒下だけ」
「なんで俺だけ!」
「まあでも良かったよね、同じクラスのがなにかと便利だし」
「教科書借りにいけないけどな」
「馬鹿、教科書ぐらい自分でちゃんと持って来い」
「だって重たいしー、ってか笹井遅くね?」
「どうせ今日すぐ終わるし来ないんじゃないかな」
「またアイツはサボりか…!ったく、ちゃんと朝電話してやったってのに」
「モーニングコールお疲れ、おかん」
「誰がおかんだ」
進級しても変わらないメンバーで雑談をするのは周りよりも容姿の整っている、学校では目立つ4人組の内の3人だった。
机に腰掛ける棒下と其の傍に立つ真枝、近くの椅子に腰掛けている木高田は周りのクラスメイト達の注目の的になりつつあった。
「やっぱり格好良いよね、あそこのグループ!しかも入学した時より大人っぽくなったし!」
「残念、笹井くんまだ来てないんだ。でもあたし真枝くんも結構好きだったりするー」
少し離れた場所から3人組を眺めて嬉しそうな表情を浮かべている女子生徒達。
だがこの女子生徒以外にも彼等を何らかの対象として見ているものは男女問わずいる事も確かで。
「おーい、席着けー」
HRの始まりを告げるチャイムが校内に響いた瞬間、前の扉から姿を見せたのは本日からこのクラスの担任となる教師であった。
其の声によって騒がしかった生徒達も各々の席に着き、黒板の方へと向き直った。
勿論あの3人組も。
「俺がこのクラスの担任になった田中だ。中弛みの二年生と言われない様に規律を守って生活し、」
在り来たりな初日の挨拶、其れを遮ったのは扉の開く音だった。
開いていた口を閉じた担任は音の聞こえた方へと生徒達と共に視線を向けた。
「あー、遅れてすいません」
其の扉から現れたのは黒髪を揺らせ、眠たげな瞳をしている笹井優であった。
あの目立つという4人組の一人。
其の中で一番身長の高い彼は特に目を惹く存在であった。
「笹井か、全くお前は初日から…。遅刻の理由は?」
「んー、道で転んで泣いてる小学生を助けてあげてたとかどうスか」
「どうスか?じゃないだろ、馬鹿!」
「いた」
本当に痛いと思っているのかという程担任に丸めたプリントで叩かれた彼は抑揚のない声を上げた。
怒るというよりも呆れたという表情を浮かべた教師は早く席に着け、と促す様に先程彼を叩いたプリントで
空いている席を指せば彼は其の足をのろのろと動かして椅子に腰掛けた。
「今年のクラスも平和そう」
ぽつりと呟いた言葉は誰に聞こえるでもなく、すっと消えていった。
進級
(で、遅刻の理由は?)
(二度寝)
(モーニングコールしたのに二度寝ってどういうことだ…!)