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「―――――」

オルガの胸元。オルガの血で染まった折り紙の華を見つけた時、クーデリアはハンマーで殴られたような衝撃を覚えた。
いつの日か、自分がもらったものと全く一緒だった。

今もそうだが、東の死を聞いた時、クーデリアはあまりにも現実味が無さすぎて茫然とした。
彼らについて、自分や世界のこれからについて。考え直すきっかけとなった初まりの日を思い出す。その一件で酷く落ち込んだクーデリアに、差し出された華があった。

手元から目線を上げ顔を見ると、“枯れない華”だと彼女は言った。折り紙だから、とかではなくて、「絶対に枯れない、私たちの鉄の華」だと。「オルガも認めたから、これからはそうなんだ」と。
クーデリアは東の想いを勘違いしていたと初めて気がついた。フウカやクッキー、クラッカ。女の子にばかり渡しているものだと思っていたものが、今オルガの胸にも同じものがある。
思い至らずにはいられなかった。
“守りたいものに渡していた”のだ。きっと。
『双子は?今どこにいるの』『………タカキが戦場に出てるなら、きっと寂しい思いをしてる。大丈夫かな』『…決めたなら文句は言わない。信頼を得るのも大事だ。でも、死んだら信頼もなにもなくなるだろ、クーデリア』
彼女にその自覚があったかはわからない。けれど東が重要視していたもの、一番最初に安否を気にしていたものを考えれば納得がいった。
きっと、それを受け取ってもらえることこそ、東が“守ってもいい”証明であり、“家族の証”だった。

「……そ…んな……」

オルガがどんな気持ちを東に抱いていたか、クーデリアにはわからない。
大切な仲間を守るため。そして、新しい“家族の形”を守るため。命を削った彼女が最後に何を思ったのか。誰を想ったのかも。
けれど。

『…オルガも、名瀬さんみたいに綺麗な人と結婚して、子供を作ったりするのかな』

ぼそりとどこか寂しそうに呟いた東の横顔が瞼裏に蘇る。
クーデリアは戦慄く口元を手で覆う。
オルガに渡された華だけは別の意味だったんじゃないか、と。思ってしまった。

『…戦いとは縁遠い場所がいいな、白い花に囲まれた綺麗な家だったらもっといい。甲斐性のある男と幸せになって、元気な子供と一緒に庭を駆け回って。そんな場所へあいつを送り届けんのが、きっと、俺の…』

もしかすると、あの赤い折り紙の華は東も持っていて。
想い合って、いたのではないかと。

絞り出すような泣き声だった。あまりにもありきたりで、正常な感覚と感情がクーデリアを襲う。
口をつぐみ俯いたオルガの手が握り締められていたのを思い出す。クーデリアが決意だと思っていたソレは、同じ決意でもクーデリアが思い描いていたものとは違ったのだ。

『…そうやって生きるアイツを見るのが夢なんだよ』

ああ、あなたたちは、なんて、なんて。としゃくりあげる喉から声が漏れる。普段のよく通る美しい声ではなく、掠れ、嗄れ、空気を含み、悲鳴のようですらあった。
東やオルガはこの結果を受け入れたのだろう。仲間を、思い人を心の内に描いて最期には笑ったのだろう。
アトラが泣き崩れている。そんなに叫んでは体に障ると諌めてやらねばいけない。のに。

「あ…あああああ…あああ…」

ボロボロと目尻から流れ落ちる滴を止められない。溢れに溢れて、まるで、心までも取りこぼしていくような。今までの中で一番強烈で、今までで一番衝撃的で。

アトラと共に泣き崩れずにはいられなかった。



失うということ