見るからにフリーメールだと分かるような毎回違うアルファベットの羅列で唐突にパソコンに届くそれは日時だけが記されている。しかし、ほぼ毎週の事と化しているので別段苛ついたりはしない。 ゆっくりとディスプレイを撫でるように文字に触れ、音もなく口許を緩めて笑い声を漏らすとその文面をプライベート用の携帯電話に転送し、パソコンからはそれに関するデータを削除した。 「九十九屋?居るのか?」 ガチャリとドアを開けて声を掛ければ中からの応答は無い。首を傾げながら室内に足を踏み入れてれば部屋に唯一存在している大きな窓のカーテンが閉められていて光が射し込んで居なかった。そんな部屋にぼんやりと浮かぶモニターの光を受けて色素の薄い髪の毛がさらり、と頬を滑り落ちる。 「……九十九、屋?」 「ん?ああ、折原来てたのか」 気付かなかった。そうに笑った九十九屋は小さく溜め息を吐きながら眼鏡を外すと目尻を押さえながらふわりと微笑んで、休憩とばかりにパソコンの前から立ち上がった。その後を付いていけば九十九屋は珈琲を淹れに行くのかキッチンに向かう。 相変わらず生活感の欠片も見当たらない部屋をぼんやりと見回していたらこつり、とテーブルにマグカップが置かれて目線を合わせれば、勧めるように顎を動かされ珈琲を口に含む。 ふわりと漂う香りとしたに残る僅かに苦いけれど心地良い味にホッと安堵の息を漏らした。 「それで今回はなんの用?」 「特には無いよ。折原に会いたかっただけ」 喉元を滑り落ちていたその液体が器官に入り込み、思わず噎せた。口許を押さえて九十九屋を見上げれば、厭らしく歪んだ瞳が見えてひくりと喉が引き吊る。嫌な予感に一歩後退り、その視線から逃れようとすればそれよりも早く相手の腕が伸びてきて、いっそ痛いくらいに腕を掴まれ引っ張られる。 一瞬の出来事に抵抗する暇もなくそのまま俺は九十九屋の胸元に顔を押し付けるようにして抱きしめられた。 「ちょっと、九十九屋…っ!」 「折原」 焦らすように小さく囁くその声と唇をなぞる指先に文句の一つでも言ってやろうと口を開けば、好機とばかりに呼吸を塞がれる。半ば強引に重なってきたそれに、しかし自らも重ねるようにして瞼を閉じた。 「なんてことは無い、折原の声が聞きたくなっただけだ」 「………ばかじゃないの」 ぎゅう、と表情を悟られないように顔を埋めて力一杯抱きつけば頭上から小さく漏れた笑い声が聞こえて、既に真っ赤な頬に一層の朱が走る感覚がした。 「珈琲、冷める……」 「また後で淹れてやるから」 本当、……ずるい。 ***** 素敵企画『ズルイ、大人』様に提出させて頂きました。 大人組×臨也と言う素敵企画過ぎて動機が止まらないです! 此処はやっぱりサイト的には四木臨なのかなあ、と思ったんですが『ズルイ』を考えた瞬間に九十九屋の手のひらの上で踊らされる臨也、と言う構図が浮かんだので九十臨で参加させて頂きました。 手のひらの上で踊らされてないじゃんかって突っ込みはナシの方向でお願いします\(^O^)/← 素敵企画、ありがとうございました! |