世界一不憫な美男子の日常と憂鬱 | ナノ



 テレビから流れるいっそ清々しいまでに偽物っぽい爆笑を聞きながら、俺はちゃぶ台に置いてある湯飲みを手に取った。すっかりぬるくなってしまった玄米茶はそれでも美味しくない訳ではなく、これはかなりの上等モノだな、と思う。本当は日本茶よりハーブティーなんかの方が好きだけど、これはこれで悪くない。
 飲みきってしまったので俺は湯飲みをちゃぶ台に戻して、四角い画面に視線をやった。なんのこだわりもなく(でもテレビの電源を切る気にはなれなくて)適当に流しっぱなしの番組は、くだらないネタしかない若手お笑い芸人がたくさん出演しているバラエティー。その中の司会が軽快な声調子であと何十分何秒だとかを伝えていて、その数字はテレビ画面の右下にも同じように表示されている。さあ、残り二十二分になりましたが、皆様やり残したことはないですか? そこで司会がゲストの若手を弄って、また会場に大げさすぎる笑いが起こる。このテの職業の人は大変だな、と他人事のように思った。サクラっていうの? 面白くなくても盛り上げるために笑わなければいけないのだから。実際他人事なのだけれど。
 こんなに明るい音声だから尚更、どんどん短くなっていく右下の数字が現実味を帯びないんだ。
 だって、これはけっして年末のカウントダウンなんかとは違う。

 もうすぐ地球に大きな隕石が衝突するらしい。
 そんなの安っぽい映画や小説の中だけの作り話だと思っていた。今まで何度も胡散臭い預言者やら学者が人類滅亡説をでっちあげていたから、いよいよ本当のことになってしまった後も実感が湧かない。どうせまた『デマでした、お騒がせしてすみませんでした』ってなことになるんじゃないの?
 けれどどの新聞やニュースでもそれの特集が組まれていて、ああ、本当なんだ、と思い知った。
 不思議と心はとても穏やかだった。



 俺の向かい側、同じように冷めた玄米茶をすする真田の表情を窺う。
 何をまかり間違ってどうして血迷ってしまったのかさっぱり理解できないのだけれど、俺は世界最後の日を真田と過ごしている。あーあ、もし隣に小柄で控えめで可愛い彼女がいたら、どうぞ隕石さんよ来てください喜んで死んであげますよって思えるのになあ。何が楽しくてこんな堅物で面白味のない腐れ縁と一緒にいるんだ。一時の気の迷いにしてもひどすぎる。さて、あと十八分ですよー皆様心の準備はよろしいですか? もういいよ司会者。やめてあげてよスタッフ。彼等にも寄り添いたい家族くらいいるだろうに。

「二杯目、いるか?」
「……いただく」

 そうかと頷いて真田は立ち上がった。別に味は悪くないからそのままでもいいのに、奴は俺にあたたかいものを淹れ直してくれるらしい。
 馬鹿みたいだ。タイムリミットがどれだけだと騒がれている中、その何分の一かをお湯を沸かすのに割くつもりか。コイツのこういう不器用なところは昔から変わっちゃいない。
 いつでも真田は正直すぎるんだ。

「……やっぱり、いい」
「そうか?」
「時間がもったいないだろ」

 はあ、俺ってなんて不憫な美男子なんだろう。
 こんな野郎のどこがそんなに良いのか未だに自分でもまるっきり分からないのだけれど、それでも俺はこの堅物が好きらしい。お湯を沸かすくらいならその時間を俺のために使えよと思うくらいには。
 本気で自分が不憫でならない。

「……幸村」
「ん?」
「俺は」
「うん」

「お前が、」

 その後にどんな言葉が続いたのか、俺はきちんと聞いたのか聞いていないのか、もうなんでもよかった。





 冷たい指先で暖かい手の甲に触れる。
 終末まで、あと――










******
twitterにて、10月17日に隕石が衝突して人類滅亡と騒がれていたので悪ノリしてみました。
書いた本人はほのぼのだと言い張ります。
真幸好き、凹(PCサイト)のあまいの誕生日祝いに。

2011.10.18.

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