鎮魂歌 | ナノ





※死ネタ

























 仁王君が死んだ。
 静かに、穏やかに、仁王君が死んだ。
 隣で眠る彼の薄紅色の口元を見ていると、ふと、埋葬する場所を探さなければと思い立つ。
 力の抜けた彼の身体を抱きかかえ一階まで降り、彼を助手席に座らせるとそのままアクセルを踏んだ。
 二人で、どこか遠いところへ行きたい。
 信号待ちの間、仁王君の顔をやや左側に傾けた。
 こうすれば仁王君も外の景色を楽しむことができる。
 暑いのが苦手な彼のためにほんの少し窓を開けて、入ってくる風にそよぐ彼の髪を横目で見て微笑んだ。

 都心からだいぶ離れて山を越え、気ままに車を走らせるうちに海へと出た。
 朝陽を反射してキラキラ光る海を見ているとなぜだかとても心が落ち着く。
 ねえ仁王君、見えますか。海ですよ。綺麗ですね。
 あなたは海が好きだから、ですから、きっと喜んでくれるのでしょう?
 ねえ、仁王君?
 そう問いかけても彼から返事はない。
 そっと頬に触れるとそこはひどく冷たくて、先程までほんのり桃色だった肌は、このまま消えてしまうのではないかと思うほどすっかり真っ白になってしまっていた。

 ――そうか、彼は。

 本当に死んでしまったのだ――と思った。
 それを理解してしまってすぐ、ああ、どうしてだろう、涙がとめどなく溢れ出てきた。
 私はもしかしたら彼に死んでもらいたくなかったのかもしれない。
 ただ彼と長い永い夢を見たかっただけなのかも、しれない。
 それに気付いた時にはすでに、彼は私の傍にはいなかった。



 仁王君が死んだ。
 彼が「殺してくれ」と泣き喚くので、首を絞めるとあっさり彼は死んでしまった。










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埋葬場所を探しに行こう。

2011.7.19.

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