届かぬ想いと恋文 | ナノ



 ――ああ。
 恋とはもっと、きれいなものだと思っていたのに。



「あれ、」

 たとえば用事があるとかでたまたま帰路が同じになれば嬉しい。
 たとえばあの人が自分に笑顔で話し掛けてくれたなら自然とこちらの表情も綻ぶ。
 それだけだと思っていたのに。

「……ラブレターもらっちゃった」
「さすが、幸村君は人気ですね」

 あなたを目で追った。
 あなたに恋をした。
 自分の気持ちを告げるつもりなんてない。
 ただ、ある程度近い場所に自分の存在が在ることを許されるのであれば。
 そう思っていたのに。

「……申し訳ないなあ」
「おや、断ってしまうのですね」
「だって今の俺には、余裕がないから」

 テニスのことで精一杯だからさ、と笑うあなたを見て、
 ――ああ、どうして自分はこんなにも安心してしまうのだろうか。


 鞄の革越しに感じる“それ”が急に重くなるのを感じた。





 恋とはもっと、きれいなものだと思っていたのに。
 あなたが誰か他の人から愛の告白を受けるたび嫌な気分になったり、
 あなたの言葉に安堵しつつも、自分が特別になり得ないことにやるせなさを感じたり、

 あなた宛てに預かったラブレターを渡さないまま処分して、なかったことにしてしまったり、

 たくさんある女子からのそれの中に、こっそり名無しで自分のものを紛れ込ませてみたりする。





 それでも空は青いし、今日は変わらず過ぎていくのだから、不思議だ。










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一度は書いてみたかった柳生→幸村。

2011.6.8.

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