ユメモノガタリ | ナノ






※精神錯乱
※救いがありません
※気持ち的にR-18
※閲覧は自己責任 読後の苦情は受け付けません


















































 ――あの子の泣き声で目が覚めた。

 自分が眠るベッドの、横にいるその子を見た。
 ああ、また泣いているの。
 お腹がすいたの、おむつの中身が気持ちわるいの。
 それとも寂しかったの、かまってほしかったの?
 大丈夫、そばにいるよ。
 ママはずーっとそばに、そばにいるから。だいじょうぶだよ。もう泣くのはやめようね。
 だいじょうぶ、もうすぐパパが――










 あなたは子どもが産めないでしょうとあの人は言った。
 だから私は、子どもが産める人と結婚をするんです。
 お別れしましょう、仁王君。
 柳生、そんなこと言わないで、柳生、やぎゅう!
 追いかけたってもう柳生はこっちを向いてくれなくて、傍らには控えめに笑う優しそうなきれいなおんなのひとがいた。
 どうしてなの。
 どうして知らないひとがそこにいるの。
 どうして柳生のとなりにいるのが、俺じゃだめなの。
 子どもが産めないから?
 それだけ?
 ねえ柳生、俺のこと嫌いになったわけではないんでしょう?
 ねえ、ただそれだけの理由で離れただけなんだよね。
 そうか、今までなにか足りないたりないと思っていたんだ。
 子どもがたりないの。そうなんだね。
 そんなに子どもがほしいの、そうなの?



 毎日まいにち地獄のような日々を過ごした。
 食べては血を吐く生活、それでも無理をして食べた。
 きちんと食べないと子どもを産むときにつらいでしょう。
 母体は健康でいなきゃいけないのでしょう?
 俺は毎日無理をして食べた。
 骨と皮しかなかった身体の肉つきが少し良くなったときは本当に嬉しかった。
 前よりずっと健康になったのかな。
 ねえやぎゅう、よかったよ、これで元気な子どもがうめる。
 それが本当にうれしくて、俺は毎晩、柳生がゆいいつ俺に残してくれた、一度だけねだってUFOキャッチャーで取ってもらったぬいぐるみを抱いて眠った。



 それなのにある日のこと。
 今までに経験したことのないような、ひどい耳鳴りがした。
 遠くから響く気持ちの悪い音だった。
 耳をふさいでも耳ざわりなそれは消えない。
 別のことを考えようとしても止まない。
 そして刺されてしまったんじゃないかというほどに下腹部に痛みを覚えた。
 柳生、やぎゅう、助けて、たすけてやぎゅう。
 枕の横においてあった柳生にもらったぬいぐるみを抱きしめる。
 痛い、イタイ、いたい!
 たすけて、柳生。俺はケンコウになりたいだけなのに。


 たすけて、やぎゅう。










 目が覚めたとき、俺は知らない場所にいた。
 真っ白いシーツ、まっしろいかべ。自分の部屋よりずっと遠い天井。
 横には俺の知らないひとが立っていて、なにかをしきりに話していたけれど、何を言っているのかまったく分からなかったのでてきとうにうなずいた。
 がしゃん、と重い扉を閉めてそのひとは去っていった。
 なんだったのだろう、と逆のほうに寝返りを打つ。
 いつも抱きしめるぬいぐるみを両腕でめいっぱい包んで、そうして、俺は泣き声を聞いた。

 ……泣いているの?
 だれが?
 この部屋には俺しかいない。

 それでふと、どうしてだろう。
 なんとなくそう思い立ち、腕の力をゆるめた。
 泣き声が少しやわらいだのが、わかった。



 ああ、なんてこと!



 ぬいぐるみなんかじゃない。
 この子は、俺の子。
 俺がうんだ子どもだ。
 そうか、さっきあんなにお腹がいたかったのは、ジンツウだったんだね。
 食べて食べてそのたび血を吐いていたのは、つわりだったんだ。
 ああ、俺は、母親になれたんだね!

 つまりここは病院なのか、と思った。
 ひどかった耳なりは救急車。
 母子共に危険なじょうたいで、俺はここに運ばれたんだ。
 それで、俺も無事で、あかちゃんもげんき。
 さっきのひとはお医者さま。
 みんなみんな、ありがとう。
 ついに、やっと、俺はママになれたんだね!

 腕まくらで少しだけおちついたその子を見た。
 ああ、おれの子ども、おれのあかちゃん。今までみたどの子どもよりかわいい。
 まだ泣き足りないようすのその子はきっとおなかが空いているのだろうと思い、おれは部屋じゅう歩きまわって哺乳びんをさがした。
 きっとおれは倒れて起きたばかりでフケンコウだから、おっぱいが出ないから、体温のあたたかさにした粉ミルクをあげよう。
 のませたあとはげっぷをさせなきゃいけないんだよね。
 ママになりたかったから、いっぱいいっぱいべんきょうしたから知ってるよ。
 それで、そのあとはまたママといっしょにねむろうか、あかちゃん。



 しばらくしたらなまえを考えなきゃいけないね。
 でも、ひとりで考えるのはだめ。
 パパがむかえにきたら、そのときいっしょにかんがえることにするね。
 ねえやぎゅう、やぎゅうとおれの子どもだよ。
 おれはやぎゅうとしかセックスをしたことがないんだもの。やぎゅうの子だよ。
 ねえ、あかちゃんがうまれたよ。
 あなたはこどもがほしかったのでしょう?
 ねえ、うまれたよ。
 むかえにきてくれるんだよね?



 やぎゅう。
 こどもだよ。
 やぎゅう。
 あかちゃん。
 ぱぱ。
 やぎゅう?



 なんだかとてもゆかいなきぶんだ。
 とてもしあわせ。
 このこがよなきしても、それすらもしあわせ。
 あかちゃんがもてるしあわせ!
 しあわせなときは、わらってもいいよね!





 あはは。
 しあわせだね。

 あはは。
 すてきだね。

 あはは!
 ねえ、みて、せかいでいちばんかわいい、おれのあかちゃんだよ!





 あはは、はは、あははははははははははっ!










 ねえ、おれのだいじなあかちゃん。



 ぱぱはいつ、あいにきてくれるんだろうね?










******
母親になりたかった。

2011.5.29.

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