約束の一日 | ナノ




 アラームをセットしていたのより二時間も早く目が覚めてしまった。
 朝食はろくに喉を通らず、ぬるくなったカフェオレの力を借りて無理矢理流し込む。
 前日にハンガーにかけておいた服は、完璧だと思っていたのにいざ着ようとするとまた悩んでしまった。
 ああもう、部の買い出しなら制服かジャージで構わないのに、と考えてしまう自分が憎らしくて仕方がない。
 お使いなどではなく、学校の外で私服で会えるような関係を望んだのは自分だというのに。
 まあ、あいつはいつも通りあの訳の分からんだっさい柄のシャツを着てくるかもしれへんけど。
 あ、それ考えたらなんかここまで気張らんでええやんって思えてきた。
 それでも気合いを入れるに越したことはない。
 第一印象は大事なのだ。今更第一もクソもないやろうけど、でもあながち間違ってもいないと思う。
 だって、今日は、初めての、





 散々頭を抱えた挙句、結局前日に選んだとおりのものを着て家を出た。
 予定通りのバスに乗る。
 待ち合わせ時間には二十分ほど早く着く。
 早く到着しすぎると絶対にそわそわしてどうしようもなくなると思ったからだ。
 あいつのことだから、きっと約束よりも少し遅れてくることだろう。
 そうしたら「遅い」と文句を言ってやろう。そしてコーヒーでも奢ってもらってチャラにしよう。
 それが多分、定番だ。
 ――『デート』の、定番。
 アカンなんか緊張してきた。こんなことでキョドってたまるか。聖書の名が泣くわ。
 そんなしょうもないことを考えているうちに目的の停留所に着いた。
 少し、歩く。
 すると間もなく、こちらに笑顔で手を振る人物の姿を見つけた。
 ぎょっとして右手にはめた腕時計を見ると、待ち合わせの二十分前。
 え、待って、なんでもう居るんやあいつ。
 こんなの全然予想してなくて、先程まで考えていたプランだとか話題だとか、そういうことが全部吹っ飛んでしまった。
 とりあえず、声を掛けよう。
 なんて?

「…………ごめん。待たせた?」


「んーん、今来たとこばい」



 あっさりと、先程思っていたのとはまた別の『デート』の定番台詞を吐かれて、俺は無言で奴の足を蹴り飛ばした。










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教科書通りにはいかない恋。
友人に捧ぐ。誕生日おめでとう。

2016.7.10.

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