美しく青き | ナノ



 帰宅途中に寄ったレンタルショップは相も変わらずしょぼかった。
 建て付けの悪い自動ドアが妙な音を立てて俺を中に呼び寄せる。昔、もっと幼かった頃はまるでこの場所が遊園地であるかのようにはしゃいでいた気がするが、しかし現実とはこんなものである。大人になるのはいいことばかりではない。
 店内は狭く、二分もあればぐるっと一通り見て回ることができた。その中の一角、子供向け特撮番組のコーナーで立ち止まる。
 なにしろ、たった一度見逃したことを覚えていた下の弟が見たいと駄々をこねたらしい。おそらく相当我侭を言ったのだろうことは母親からのメールの文面だけでよく分かった。このままどうしようもなく自分勝手な奴に育ってしまったらどうしよう、なんて考えながらも、結局甘やかしてしまうからできない兄貴だと思う。なんだかんだ弟とは可愛いものなのだ。
 記憶だけを頼りに見逃した一回を探し、DVDを抜き取った。
 あとはカウンターに持っていくだけだというその時、視界の端に何か聞き覚えのある単語を見つける。
 そこには、自分は絶対立ち寄らないクラシック音楽の棚があった。ベートーヴェンだとかモーツァルトだとか、音楽室の壁に貼られた写真でしか知らない名前が並んでいる。視線を左から右へゆっくりとずらし、該当の物を見つけ出す。
 今朝、部室で比呂士が好きだと言っていた作曲家の名前だった。長く覚えづらいそれをなぜだか忘れず記憶していた。
 ジャケットの裏にある曲名を上から順に見る。どれもこれもよく分からないタイトルが付けられていて眩暈がしたが、その中に一曲だけ、いつかの音楽の授業で聞いたものがあった。どんな曲だったかはもう記憶にないが、果てしなく眠かったことだけはよく覚えている。というか多分半分は寝てた。そういやクラシックで目覚めるとか優雅なことを言っていたが、それが本当だったとしたら一体あいつの脳味噌はどんな作りをしているんだ。俺なら間違いなく寝坊する。
 奴の神経を軽く疑いながら、並んだ曲名と睨めっこをした。
 ――試してみるのも一興かもしれない。
 もしかしたらこの中に一曲でもアラームに相応しいものがあるのかもしれない。遅刻してしまったら奴に苦情を言えばいい。そう考えてヒーロー番組DVDの上に堅苦しいタイトルのそれを重ねた。
 さて、どうなることやら。考えなくとも結果は見えている気もしなくもないが。



 たまたま目に付いたから。それだけを理由にするには随分無理があることに俺は気づいている。俺はクラシックに興味はない方だし、好奇心も自分に損がない程度しか持たない。それでも手に取ったのだ。
 もしかしたらそのきっかけ自体が立派な『答え』だったのかもしれない。
 けれどそんなことより今は、明日寝坊した時にどんな文句を言ってやろうか考える方が楽しかった。


 自覚はまだ少し、先。










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柳生の好きなシュトラウスが一世だった場合タイトル変更を余儀なくされる。

2014.12.17.

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