凍土 | ナノ



 朝起きて一番始めに思ったのは、死にたいな、だった。

 ぼんやりする頭を叩き起こすように目を擦る。
 窓の外にある太陽の光は安物のカーテンを遠慮なく突き抜けてこの部屋まで届いた。どうやら先日までの雨とは打って変わり、今日はいい天気らしい。痛む頭を抱え引きずるように布団を這い出る。
 カーテンの隙間からそっと外にある景色を覗き見る。雲一つないというと大袈裟だが、過ごしやすい日だろうと思った。暖かすぎず寒すぎず、しばらく居着いていた水溜まりは少しずつその姿を小さくしている。ランドセルを背負って駆けて行った小学生の後ろ姿は元気だ。
 そんな最高の日にどうして自分は憂鬱なのだろうかと考える。しばらくして昨日のことを思い出して、ああそういうことかと思い至った。
 今でも瞼の裏、ひとつひとつ鮮明に蘇る。雨の上がらない夕方、誰もいない校舎。あまりにもリアルで、むしろ夢なのではと思える光景は、どう足掻いても現実だ。

 俺は昨日同級生に振られた。
 分かりきっていた結果を、なぜ捻じ曲げたがったのか自分でもよく分からなかった。
 何を期待することもないはずだったその言葉は、口からぽろりと零れて落ちた。雨の音に紛れられなかった異端な言葉は、誰に拾われることもなく落ちていった。

 死んでしまいたいなあと俺は思った。
 願ってしまった心を、答えを求めた自分を亡き者にしたかった。昨日とはまったく違う晴天の下、昨日のことを忘れて消えてしまいたい。そうじゃないと俺はきっと雨を呪ってしまうから。何も言わず、聞こえない振りをして目を逸らした柳生ごと呪ってしまうから。
 優しくて大人な柳生は俺の言葉をなかったことにした。それが柳生の答えなのだと俺は思った。その場で叩き壊してくれた方がよっぽど楽に違いないのに、奴は俺の感情をどこか遠くへ隔離してそのうち腐らせる方を選んだ。
 キリキリと、締め付けられるように全身が痛む。

 朝の空気は冷たくも柔らかい。
 もう少し経てば俺は着替えて、何事もなかったかのように家を出る。怠い身体を引きずって、顔には笑みを貼り付けて何事もなかったかのように柳生に挨拶して隣を歩くだろう。そんな自分が大嫌いだった。


 死にたいな、と思った。
 けれど昨日の雨が、今日の晴天が、俺が、柳生が、それを許さなかった。
 何もかもを生殺しにされたまま、俺は今日も一日を過ごす。










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いっそ突き放してほしかった。

2014.12.15.

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