少年フェアリーテイル | ナノ





『むかしむかし、あるところに、ちいさな神様がいました。

 ちいさな神様は花を植えたり、絵を描いたりするのがすきでした。

 神様のまわりにはたくさんの人がいて、みんなみんな笑っていました。

 神様も笑っていました。

 ちいさな神様はしあわせでした。

 しかし、ある日ちいさな神様はひとりぼっちになりました。

 神様はまわりのたくさんの人に言いました。「いっしょにあそぼうよ!」

 けれどたくさんの人は言いました。

「いっしょに遊ぶことはできません」

「私たちはみんな神様のことがだいすきです」

「でも、神様は神様ですから、私たち人間とは違うのです」

 ちいさな神様は泣きました。

 神様はたくさんの人に愛されていました。

 ですが、ちいさな神様には友だちがひとりもいなかったのです。』










“階段でうっかり足を滑らせて転落”した幸村君は静かに息をしていた。
 幸いなことに外傷は大したものではなく、医者の話によると脳の方も心配はいらないだろうとのことだった。念の為個室に移動させられた幸村君はそれから目を覚まさない。ただ穏やかに寝息を立てている。他の部員は全員先に帰らせた。俺はご家族の方が到着するまでの間幸村君の傍にいることになっている。いちばんの適任は俺だろうということになった。俺自身異論はなかった。

 深呼吸をしてから、先程収納棚で見つけたノートをもう一度開く。
 童話を書いているんだと笑った幸村君は確かにどこか雰囲気が違っていたのに、気にしてやることができなかった。
 完成したら真っ先に見てね、と彼は俺にそう言ったのだ。だからこれを読んだのも、“階段からの転落”がけっして事故なんかじゃなかったのを知ったのも俺が最初だった。
 幸村君の書いた『遺書』を目の当たりにした部員の荒れようといったらなかった。ガキみたいにわんわん泣く赤也を咎める奴は誰もいなかった。
 しかしそれ以上に大変だったのは仁王だ。力のこもっていない文字すべてに目を通した仁王は怒っていた。肩を震わせ唇を噛んで、その怒りをぶつけるように真田の頬を殴った。幸村をここまで追い詰めて壊したのはお前だと泣きながら叫んでいた。真田は黙って聞いていた。
 止めに入ったジャッカルの後ろ姿を俺はいやに冷静に見つめていた。かろうじてではあったが、同じように思考回路が生きていた柳と比呂士に後処理を頼み、俺以外が全員強制送還となった。

 気付けば幸村君はどうしようもなく神の子だった。そうでなければいけないと空気が言っていた。公式戦無敗の記録は名誉だけじゃない、彼に多大なプレッシャーを与えた。
 それに追い打ちをかけるように『敗北は許されない』だ。それが草試合であろうが負けは負け。常勝の名に泥を塗るのと同じ。彼はどれだけしんどかったのだろう。肩で息を吸うことさえできていなかったのかもしれない。
 たとえば誰か、練習試合くらい楽しんで打ってこいと声を掛ける人物がいたとしたら。たとえばあの時、無理矢理にでもノートを奪っていたとしたら。もしかしたら幸村君は今も目の前で笑っていただろうか。

 多分彼は真田を責めることはしないだろうし、仁王の考えが間違っているとも言わない。幸村君はそんな人だ。そのぶん自分を追い詰めてしまうようなどうしようもない『人』なのだ。
 神様なんかにさせてたまるものか。



 幸村君が目を覚ましたら笑って「おかえり」って言ってあげよう。それからたくさん話をしよう。哀しいことも汚いこともなんだって言うべきなのだ。
 人間の幸村君と、今度はきちんと友達になるために。










******
すれ違う想いを通わせて。

真田は幸村と付き合いが長いから幸村の言動をある程度推察できてしまう。
それを分かっているから、幸村は真田の推察の枠を超えない。
けれどだんだんそれがいきすぎて、そのうち真田は幸村を理想化してしまいます。
仁王はそこに憤りを覚えて真田を殴ったんです。


2014.1.11.

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