同族愛好 | ナノ








※品がないです
















 二人で絶頂を極めた後、いちばん最初の仁王君の行動は溜め息をつくことだった。それが幸福や疲労感から来るものならまだしも、悪意すらあるのではないかと思えてくるほどに盛大だ。うっかりこの世の真理を垣間見て絶望しましたみたいな声を出さないでほしい。
 使用済みのコンドームの口を縛りながら、横目で仁王君を見る。彼はこちらを見て黙ったきり不貞腐れた様子で丸くなっていた。わざとらしい舌打ちが響く。

「何か不満そうですね。もう一回?」
「随分しょーもない冗談じゃの」
「それはすみません。冗談ではなかったのですけれど」
「殺す気か」
「とんでもない」

 左手を仁王君の方へ伸ばし、頭を撫でるとふいっと顔を背けられた。先程まであれだけ気持ちが良さそうに啼いていたのに、少し時間を置くとこれだ。おそらく私が失言したとかそういった類のものではないのだろう。単に彼は猫並みの天気屋なのだ。
 そのまま髪を梳いていると仁王君はむっとしたまま私の顎に触れた。キスのおねだりならもう少し可愛らしくしてもらいたい。今の表情もそれはそれで悪くないけれど。
 彼はおもむろにサイドテーブルに手を伸ばすと私の眼鏡を奪う。

「……やっぱり、何度見ても、好みじゃないんよな」
「何がです」
「お前」
「は?」
「お前の顔。っちゅーか性格も言動も全部、俺の好みに掠りもせんわ。そもそも俺は可愛いオンナノコの方が好きじゃし」
「なるほど、今のがいわゆる“ツンデレ”というやつですね」
「違うし。つーかふざけてるんかガチボケなんか分かりにくいなお前」
「基本的にはガチですかね」
「タチ悪い」

 寝返りを打った仁王君は、自然な仕草で私の眼鏡を装着した。眼鏡を掛けると顔が変わる人間がいるが、間違いなく彼もその部類だと思う。普段とはまるで雰囲気が違って見えた。レンズの向こうの瞳は私の方を見ている。

「……お前の素の顔って、俺に似とんのよな」
「えーと……ありがとうございます?」
「それだけじゃなか。一筋縄でいかんとことか、本音は基本的に隠しとるとことか、似てるところが多い。詐欺の才能もあるし」
「はあ、そうですか」
「セックスが終わる度に思うよ。何でよりにもよって自分に似た奴なんだろうなって」

 横になったままの仁王君の前髪をかき分ける。
 眼鏡を掛けた仁王君の顔は、確かに鏡に映す私のそれと同じように見えなくもないと思った。けれど確実に別物だ。彼の方が肌が白い。唇が厚い。彼のチャームポイントともいえる黒子は私の顎にはない。
 彼の隣に寝転がると、仁王君は少し驚いたようだったが、何も言ってこなかった。
 そっと頬に手を添える。
 私が好きになったのは“彼”だ。

「私は、やっぱり似ていないと思います」
「そうか?」
「ええ。セックスをしている時は特にそう感じます」
「なんそれ」
「試してみます?」
「多分死ぬからやめとく」
「感じすぎて?」
「朽ちろ」

 思わず声を上げて笑うと、彼はそっぽを向いたきりこちらを見てくれなくなった。
 何の変哲もない冬のはなし。










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ただのピロ―トーク。

2014.1.10.

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