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 学部が同じなだけの、かろうじて友人と呼べなくもない同級生に誘われて行った初詣は虚しいものだった。毎度お馴染みのように行われる彼女がどうだ色恋がどうだといった会話にうんざりしながらさっさと五円玉を投げて人混みを離れる。恋人同士らしい男女が寄り添う姿を横目で見て、せめて来年は誰か彼女を連れて来いと言った男の顔を思い出せない自分はひどく薄情だなと他人事のように考えた。あまりにも適当にその場限りを取り繕って生きている。


 他人との関わり合いにこれほどなまでの苦手意識を持つようになったのはいつからだったか、実はもうよく覚えていない。気が付けば私は人間が嫌いで、自分自身に対する感情もそれ一色に染まっていた。
 大学への進学と交通の便を理由に実家を離れ、ワンルームの部屋を借りた。駅からも町の中心部からも離れた場所に建つアパートは日を追う毎に暗さを増す。血を分けた家族でさえ寄り付かない陰鬱とした閉鎖的なこの空間を手放すつもりは今のところない。小さい頃よく構ってやった妹だけは時折顔を見せるが、身内から良からぬことを囁かれているであろう事実は彼女の表情からすぐ分かった。どこに住んでいても何をしていてもわたしのお兄様だもの、と儚げに笑った彼女はこの春中学生になる。
 いっそ人間でいることを辞めることができたら、そうしたら彼女はここまで悩むこともなかったのだろうか。
 この部屋で誰と関わることもなく一人静かに過ごしていけたらいいと思った。これだけ嫌った他人の目を、顔色を、私はそれでも気にしながら息をする。


 帰宅した部屋の郵便受けは空だった。
 安物のティーバッグで淹れた紅茶は何の味もしない。冷たい布団に潜り込むことさえ億劫で、何とはなしにテレビ台の下に無造作に置いてあったDVDを再生する。目の前に広がる白黒は確かに自分の生きる世界とは違うのに、どこか似通ったものを感じた。
 もう一度郵便受けを見る。
 四年前の今日、深夜に宛名のない葉書を直接手渡してきた彼の姿を思い浮かべる。干支のつもりなのかただの遊び書きなのか分からない絵を指差した彼は笑っていた。絶対に縁起がいいから、と自信満々に掲げられ結果末賞にさえ掠らなかった年賀状は今でも引き出しの奥に眠っている。
 彼の薦めで購入したモノクロ映画のDVDは私の好みではなかった。彼の為に選んだ茶葉を彼は気に入らなかった。そんな僅かな擦れ違いがなければ、今でも彼は私の傍にいたのだろうかと目を細める。
 テレビ画面に映し出された映画はいつの間にか中盤に差し掛かっていた。内容を完璧に覚えてしまったそれを見ながら冷めた紅茶を飲む私は、もう一度郵便受けに何かが届くことを期待している。これだから現実はやりにくいのだ、とソファーに寝転がって少し笑った。










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一月二日、『8 1/2』を見ながら、二分の一しかない残りの部分を探す。

2014.1.3.

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