解夏 | ナノ



 駆け抜けるように夏が過ぎていった。

 海岸を歩きたい。
 そんなことを突然言い出した柳生に手を引かれ、学校からさほど離れていない場所にある海に来た。
 まだまだ残暑が続くがさすがに観光客はいない。その様子に柳生は満足そうな表情をする。

「せっかくですから、お城でも作りましょうか」

 また馬鹿なことをほざく野郎だと思ったが、潮風が気持ちいいから乗ってやることにする。
 作ろうと言い出した割に奴は、そりゃあもうものすごく下手くそだった。
 ところどころで不器用さは垣間見えていたが、砂を積み上げては崩れ、穴を掘っては崩れる。
 首を傾げ苦笑を浮かべる柳生はそれでもどこか生き生きとしていて、眺めているのは悪い気分ではなかった。

「仁王君とね、夏らしいことを何一つしていなかったことを思い出したんです」

 視線は足元の砂の山から逸らさないまま柳生が言う。

「まあ、忙しかったからな」
「そうですね。ですが楽しかった」
「そうじゃな」

 テニスに捧げた夏を思い出す。ほんの何週間かしか経っていないのにひどく懐かしく思えた。黄色い球を追いかけるだけの夏は、たしかに輝いていた。

「今年の夏は、できないことが多かった」
「……うん」

夏は、終わった。

「ですから、来年は、後悔しないで済む夏を一緒に作りたいですね」
「…………おう」

 しかしまあ、たった今また城もどきのそれを崩してしまったクソ不器用野郎は来年も隣にいてくれるらしいから、ちょっと期待しておこうと思う。


 ――『来年こそは』、











解夏










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終わった夏を追い掛ける。

2013.9.18.

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