夢遊病の夢 | ナノ


 涙を流して目を覚ます。
 どんな夢を見ていたのかははっきりと覚えていない。ただ胸に空虚だけが残っている。
 輪郭を持たないそれは次第に重く、大きくなる。
 大きく息を吐き、汗でぐっしょりと濡れてしまったシャツを脱いだ。
 夜独特の冷えた空気は速度を速めた鼓動を少しずつ鎮めてくれる。

 無性に喉が渇いていた。
 枕元に置いてあったソーダのペットボトルの蓋を開けると、ぷしゅうと情けない音が響く。
 深夜とはいえ、四月も終わる頃だ。中の液体はすっかり生温くなっている。美味しくない炭酸水を、俺はそれでも一気に飲んだ。



 ここのところ毎日、自分はどうしてだか泣いていて。
 自分の中に確実に侵食してくる無の存在がたまらなく恐ろしくて、ぽっかりと穴の空いた部分にひたすら水分を流し込む。当然そんなことで埋まってくれるものではない。それでもそうせずにはいられなかった。
 こういうとき、どうしてだか、柳生のことを思い出す。
 柳生に言ったら笑われるだろうか。それとも、呆れながらも「どうしようもない方ですね」と言って傍にいてくれるだろうか。あの甘い声で、俺の頭を撫でながら、子守唄を歌ったりなんかして。

 枕元に放置している携帯電話に触れ、アドレス帳から柳生の名前を探す。
 あとワンプッシュで電話が繋がる、そこで俺は手を止める。
 奴は優しい人間だから、怖い夢を見たのだといえばこんな非常識な時間でも話に付き合ってくれる。
 分かっているのに踏み出せない。
 踏み越えては、いけない気がする。

 ――ああ、そうか。
 この虚無感を、人は『恋』と呼ぶ。

 知りたくなかった気持ちを、理解してしまった。
 明日からもきっと俺は、うなされ続ける日々が続くだろう。



 いっそ夢遊病にでもなって、眠っているうちにどこかに消えてしまいたいと思った。










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久しぶりに恐ろしく筆が進んだ。
pixivで見るとちょっとおもしろいことがあります。

2013.4.29.

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