最果て | ナノ
誕生日プレゼントは何がいいですかと問うと、とても真剣な顔で「今年で世界は終わるらしいぞ」なんて彼は言った。
仁王君がおかしなことを言うのはいつものことだけれど、それにしても突拍子もなかったため思わず首を傾げる。あまりにも深刻な物言いに、失礼ながら呆れを通り越して少し笑ってしまう。私はきっと、彼のこういう予想斜め上を突き進むスタイルが好きなのだと思う。
彼は強張った表情を崩さないまま、「なあ、マヤ文明って知っとるか」。
その一言で、私は彼の言葉の意味を理解した。
「……マヤの終末論、ですか」
「そう」
「あんなの、多くの専門家は否定していますよ。そもそもなんの専門だと問いたくなりますけれどね」
「んー、それは知ってる」
「……ではなぜ?」
仁王君は両手をぐんと伸ばし、欠伸をした。
私の隣に座ったかと思えば、そのままごろんと横になる。まるで猫のようだ、と何度思ったかは覚えていない。気まぐれで、我侭で、プライドが高くて――けれど一度心を許した相手にはとことん甘えるのだ。
「俺な、今、幸せなんよ」
「ええ」
「勉強も部活もうまくいっとうし、家族とも仲悪ぅはないし、柳生もおるしな」
「ありがとうございます」
「そんな幸せの状態で世界が終わるなんて、」
仁王君は何度かまばたきをした後、その目で私を射るように見つめた。
「きっと、最高」
幸せのてっぺんにいたら、あとは堕ちるだけじゃろ。
そうけらけら笑いながら話す彼は、すっかり普段と変わらない仁王君だった。
彼も、私も、この関係が永遠でないことを知っている。
だからこそ彼は終末を望むのかもしれない。
ならば私は、この幸福をできる限り長続きさせる努力をするまでだ。
私は仁王君に覆い被さり、そっと額にキスを落とした。
「……世界の終わりはもうしばらくは来ませんし、この幸せも簡単には終わらせませんよ」
「へえ?」
「もう一度聞きます。誕生日プレゼントは何が良いですか?」
「んー……一緒にうまいモン食いたい」
「焼肉にでも行きますか」
「なあ、もし世界が終わるとしたら、その時は、」
何をくれる?
挑発的な目を向ける彼に今度は噛みつくような口付けをして、私は彼の誘いに乗った。
――そうですね、約束を差し上げますよ。
『世界の終わりの時間を共に過ごす』という約束をね。
――最高。
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最高の贈り物を。
仁王君誕生日おめでとう。(遅刻)
2012.12.5.