エクリチュール | ナノ
ある日、“俺”は生まれた。
“俺”は仁王雅治という名前らしい。太陽の光を浴びると七色に光る銀色の髪と、黄金の瞳を持っていた。肌は血管が透けるほど白く、身体は酷く痩せている。不格好に腫れた奥二重、三白眼、口元にある黒子が厭らしい。
どう見ても自分が美しい人間でないことだけは理解した。
無様だ。
そう空に呟いた。
次の日、“俺”は眼鏡を掛けていた。
姿見で自分の顔を眺めると、特に辟易していた眼は鋭い切れ長の二重瞼に変わり、分厚かった唇は薄く形の整ったものになった。焦茶の髪は癖が強かったが、それが良い雰囲気を醸し出していた。
“俺”は今、昨日より美しい人間だった。
しかし完璧ではない。白すぎた肌は程良い色に成っている。しかしやはり肉付きは良くなかった。負荷を掛けると折れてしまいそうな細腕。
完璧でないのならどれも同じだ。
そう空に呟いた。
次の日、“俺”が掛けていたはずの眼鏡は既に何処かへ消えていた。
手を伸ばす。健康的すぎない色の腕には、引き締まった筋肉が付いていた。
思わず飛び起きて鏡を見た。ミルクティーブラウンの髪が外側に跳ね美しい。鋭さを残している二重瞼、確実な優しさを宿した瞳。
自分は今、誰よりも美しいのではないかとさえ思えた。まさに完璧な姿だ。少しの隙もない。“私”はこれを求めていた。
――いや、違う。
まだ不完全だ。
違う違う違うチガウチガウ。
探さなければ。
残っている粗を、見つけ出さなければ。
“俺”は変わらなければ。
“私”は、
ワタシ、は、
――私は一度ペンを置いた。
このままではいけない、より完璧なものを目指さなければ。
そう決めたではないか。
私は深呼吸をして、再び机に向かった。
創るのだ、創造してみせる。
私だけの、理想の“ニオウマサハル”を、
エクリチュール
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創作とは、所詮理想の押し付け合い。
2012.8.8.