そこには二人以外 誰も居ない 寄せては帰る波音が不規則で心地良い音で響く 後少し、柔らかな輝きを放つ太陽が辺り一面を淡い紅緋色に染め海へ還る 蒼い海さえ、ほんのりと暖色に輝き 二人の右半身も同じ色に染まる デニムの裾を少し捲った裸足のヒムチャンが前を歩き その背を眺め穏やかな笑みを浮かべ彼の靴を手にヨングクが続く 二人の後ろには四つの足跡が一本、伸びていた ふとヒムチャンが振り返りヨングクを見た ヨングクは止まり、ん?とヒムチャンと視線を絡ませながら首を傾げればヒムチャンは笑った 普段は抜ける様に白い肌を暖色に染めて柔らかさを増している 「何だよ」 ヨングクが口を開き笑った 「ぐーが」 「だから、何だよ」 答えになっていない ヒムチャンは楽しげな声色でヨングクを呼べばまた笑う ヨングクも相変わらず穏やかな笑みだった 「好き」 暖色に染まる彼の頬が更に赤みを増した 首を竦めふふふ、と笑ってそのまま、また前を向いて歩き出す ヒムチャンの足指がきめ細かい砂に埋まり、歩く度ふわりふわりと砂が舞う 後ろから見るヨングクにとってみれば彼は雲の上を歩いている様な、そんな感覚だった 「チャニ」 「んー?」 振り向くよりも先に 触れた互いの身体 後ろから抱き締められて、耳元に触れたヨングクの唇 「チャニ」 もう一度、そして先程より低い音 じわり、身体に沁み込んでいく ヨングクの腕は細いのに後ろから抱き締める力は強くヒムチャンの身体を守る様で 「なーに?」 「もう一回」 「もう一回、何?」 「言えよ」 唇が耳をなぞり悪戯げな低音が鼓膜を揺らす ヨングクの腕の中で反転した彼は向き合い少しだけ上の瞳に視線を絡ませて目を細め唇を僅かに突き出した 「俺しか言わないの?」 「ああ」 「何でーグガも言ってよ」 「嫌」 「じゃー俺も言わなーい」 「それはダメ」 「何でよーグガも言えよー」 「俺の分もお前が言うんだよ」 「じゃあ俺はどうなるの」 「そうだな…」 ヒムチャンの身体を抱き締める右腕を離し彼の顎のラインを指先でなぞる 絡ませた視線は外され、ヨングクは突き出された唇を眺めた 「俺はこうやって表現する」 語尾が言い終わるか終わらないか、触れた唇 かさついた互いの唇を少しずつ、少しずつ啄み合うが触れ合わない舌先 稚拙な口付けを、二人は楽しんだ 「ぐ、が…」 腕の中の彼は笑ってヨングクの胸を両手で押す 離れた唇が外気に触れて少し冷たく感じたが胸の奥はひどく熱を持っていた 距離を取って見えたヒムチャンの表情は可愛らしい前歯を晒して暖色の笑み 両腕をヨングクの首筋へ回し鼻先を擦り合わせ至近距離で囁いた 「これはどーゆー意味の表現?」 「お前が言った言葉のお返し」 「好きの、お返し?」 「ああ」 「嫌いって言ってもするの?」 「そうだな、するよ」 「何で」 「俺は嫌いじゃないって意味で」 「絶対?」 「ああ、絶対」 「ふふふ、グガ大好き」 「ああ、…」 ”俺も” 再び触れ合った唇 彼らの真横の太陽はもう三分の一を海に沈め じわり広がる藍色の中 今度は舌を絡ませ合い吐息を混ぜ 無言の愛を紡いだ 太陽と月が二人を照らし 波音が二人を包む そこには二人以外 誰も居ない end . |