06
「お疲れ」
「ん」
部活が終わった仁王に声を掛けると、小さく頷く。
並んで歩いて、校門の辺りまでくると家どこ?と聞かれて答えると案外近い、と小さく笑う。
「幸村と、」
校門を出て数メートル、仁王がポツリと言って、半端なところで言葉を切った。
立ち止まった彼に気付いて私も立ち止まる。
「……、幸村と、何話しとった?」
余り大きな声ではない。
それを俯いて言うものだから、聞き零しそうになる。
「んー、珍しいって話」
一言でそう言ってしまえば、仁王が顔を上げては?と声を上げた。
正直に答えたというのになんだろうその反応は。
「だから、珍しいって」
「何が?」
こてんと首を傾げるのが何だか可愛くて、思わず小さく笑う。
「仁王、今まであんまり女に興味なかったから彼女出来たのが珍しいって」
「俺?」
自分を指差す仁王に頷いて、言葉を続ける。
「あと、私が珍しいって」
「それは納得」
じゃから希少価値付くっちゅーたじゃろ、と言葉を続けた仁王に私も苦笑して頷いた。
確かに、そうなのかもしれない。
「それだけ?」
「それだけー」
見上げて言えば、溜め息。
それからにこっと笑ったかと思えば、行こ、と促された。
「なあ亜紀ちゃん、」
「何?」
呼びかけられて短く聞き返せば、袖をつんと引かれる。
「あんまりあいつ等と話せんで」
彼がそういう理由が分からなくて首を傾げる。
そしたら今度は強く袖を引かれて、いーから、と。
「絶対な」
「や、それは言い切れないって」
強く言うものだからそれに自信を持てずに返せば、一気にムッスーとした表情。
まるで子供のようなその表情に苦笑してしまう。
「気をつけるよ」
その言葉に少しは安心でもしたのだろうか、袖から手が離された。
ぶらんと揺れる手に仁王の指先がぶつかって。
一本の指がその指に絡められたけれど、そのままにしておいた。
だって、特に嫌とは思わなかったから。
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