20
仁王と付き合っていたあの2週間足らずの期間は、夢だったのだろうかと思ってしまう。
それくらいに、仁王は私を見向きもしなくなった。
廊下ですれ違っても、視線を向けてくれさえしない。
メールをしようと思ったけれど、送ったはずのメールはエラーで返ってきた。
「…泣きそう」
「こればかりは、仁王君と亜紀の問題だしねえ」
机に伏せてぽつりと呟けば、私の席の隣にいる友人が困ったように言う。
本当に、泣きそうだ。
私が何をしようと、仁王の注意を惹くことはもう二度とないのだろうか。
あの優しい笑みを見ることはできないのだろうか。
あの楽しいひと時を、過去のものにはしたくない。
「高峰はいるか?」
落ち着いた声に呼ばれて顔を上げれば、そこにはすらりとした長身。
隣には、メガネをかけた人。
教室が水を打ったように静まり返った。
***
「…えと、どちら様でしたっけ?」
見たことはある。多分、テニス部。
けれど、自己紹介をされたわけではない。だから、名前は分からない。
それどころか、顔ですらうろ覚えなのだ。
「ああ、悪い。自己紹介がまだだったな。俺は柳蓮二、テニス部だ」
「同じくテニス部の柳生比呂士です」
呼び出されて、適当な空き教室で自己紹介。
テニス部が、私に一体何のようだというのだろうか。
「それで、私に何の用があるの?」
「頼みがあるんだ」
困ったように眉尻を下げる柳君に、首を傾げる。
「仁王君を、何とかしてはいただけないでしょうか」
柳生君の言葉に、思わず反応してしまう。
何故、私に仁王のことを頼むのだろうか。
「な、んで私に、頼むんですか」
私は既に、仁王の彼女ではない。
それはテニス部はとっくに知っているはず。
そして仁王が私をもう見向きもしないことも。
「高峰さんにしか、できないことです」
「俺達ではどうにもできないんだ」
だから頼む、と。
そういわれても、私にはどうしようもない。
「にお、は、どうしたんですか」
「あの状態では、身体を壊す」
告げられた言葉に、衝撃を受けた。
どうしたというのだろうか。
何で、身体を壊すだなんて。
「どういう、こと?」
声が、震える。
「しばらく、食事を摂っていない。それに、睡眠時間も足りていないらしい」
そのくせに、テニスをすれば無茶なプレイばかり。
チームメイトは何度も注意をしたという。
けれど一向にそれを聞き入れる様子はないらしい。
「高峰さん、貴女と別れてからなんです」
私と別れたから、仁王が食事を摂らなくなった。眠らなくなった。
それは、私のせい?
「あれではいつ倒れてもおかしくない」
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