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不思議にだと首を傾げることが、最近ある。
ほぼ毎日、自分の教室に行くと仁王が私の席に座っていたり。
帰ろうとすると、それを見計らったかのように一緒に帰るぞとメールが来たり。
おかげで、学校のフリーな時間帯は大体仁王と一緒に過ごすようになってしまった。
「…あのさ、」
「ん?」
朝だからなのだろうか、いつもの仁王より幾分間延びした返事。
低血圧そうだもんな、朝はやっぱり辛いのだろうか。
「何で、毎朝私の席に座ってんの?」
「……ダメ?」
数秒の沈黙の後に、こてんと首を傾げて言う。
いや、悪いわけではないのだけれど。
ただ気になっただけだ。
「少しでも長く、亜紀ちゃんと一緒に居りたいだけじゃよ」
「…バカップルみたいなセリフだね、仁王」
へらりと笑って言った言葉にそう返せば、気のせいだろうか。仁王の表情が輝いて見えた。
おお!とかいう声も聞こえた気がしたけど、空耳だよね?
「ええのう、バカップル。亜紀ちゃん、もっといちゃいちゃしよ」
「私がしなくても仁王からくっ付いてくるじゃん…」
はあ、と溜め息をついて机に伏せる。
そこで気付く。
木の湿った、独特の匂い。
首を傾げれば、どーした?という声が降ってきたから何でもないと答えて。
そこは誤魔化したのだけれど。
その匂いが、やけに引っかかった。
***
何となく授業に出るのが億劫で、屋上でサボってみた。
ぼんやりと空を眺めながら思い出した。
そういえば自分からサボるのって、初めてだ。
仰向けに寝転がって、ただひたすらに雲の動きを目で追っていたら。
遠くで、鐘が鳴るのが聞こえた。
いつのまにそんなに時間が経っていたのだろうか。
いっきにざわめき出す校舎。
数秒後に、屋上へのドアがガチャリと金属音をさせて開くのが聞こえた。
「ちょっと、どういうこと?」
「全然堪えてないよね」
「神経図太いにも程があるって」
ヒソヒソと話をしているつもりなのだろうけど、私の耳にはバッチリ届く声量。
どうやら3人か、もしくはそれ以上の女子生徒が来たらしい。
「朝張ってみようか?」
「あ、じゃあアタシやる。どんな顔してんのか見てやるよ」
「今週やってもダメなら来週からはアイツ等使おうか」
どんな会話。
ていうか、なんかあんまりよろしいイメージはない。
ぶっちゃけ悪役のセリフじゃございませんか?
「アイツ等に連絡とって、ちょろっと脅してやろーよ」
脅しとか。え、こえーこの人たち。
一体何者ですか。
「流石にそこまでされても別れないとか、ないでしょ」
「アタシなら絶対泣くね!」
「あっは、絶対ない!ないない、あんたそんなに神経細くないじゃん!」
「うっわ失礼な。あ、そーいえば帰りに買い物してこーよ」
あははとか笑う声が遠ざかって、再びガチャリという金属音。
バタンという音の後には、静寂。
「………こっわ、」
なんだか凄く怖い会話を聞いてしまった。
溜め息をついて起き上がると、ちょうどいいタイミングで鳴る携帯電話。
…さっきの人たちが居る時にならなくて良かったよ。
ぱかりと開いてメール画面を立ち上げれば、そこに表示されたのはたった一言、『今どこ』。
それに少し笑って、短く屋上、とだけ打ち込んで返信。
数分ほどそのまま、またぼんやりとしていたら。
「亜紀ちゃん」
給水棟の上にいた私に覆いかぶさるように、影。
上を仰げば、銀色が光に透けてキラキラしてて綺麗だった。
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