03




「あっれ、あんたマネージャーの悠先輩の妹の…」

翌日教室に入れば、驚いた顔で指差してくる少年が1人。
クセ毛なのか、髪がウネウネしてる。

「…誰?」
「はー?なんだよ、俺のこと覚えてねーのアンタ。俺テニス部なんだけど」
「昨日は仕事覚えるのでいっぱいいっぱいだったから、部員の名前も顔もまだ覚えられてないの」

それに、自己紹介をされたわけじゃない。
ただ一方的に新しいマネージャーだと自分を紹介されただけ。
その後はひたすら仕事を覚えようと頑張っていたから、部員の名前も顔も覚える余裕がなかった。

「なんだよ、それ位覚えとけっての。切原赤也!忘れんなよ」
「切原、赤也くん。うん、覚えた」

一つ頷いて、それで?と聞き返す。

「何だよ?」
「そういう切原くんも、私の名前覚えてないんでしょ」
「覚えてるっての!えーと、確か…浅見、浅見…」

またか、と溜め息がもれる。
それに気付いた切原くんが、何だよと言わんばかりに睨んでくる。

「人のこと言えないじゃない。苗字は姉と一緒だから覚えられても、名前までは覚えられてないんでしょ 」
「うるっせーな」

ぶつけられる視線を流して、自分の席に向かう。
その後を追うように切原くんが向かってくるけど、気にしない。

「教えろよ」
「覚えられないならいーよ、別にムリに覚えなくて。姉は『悠先輩』、私は『浅見』って呼べばいいでし ょ」

あ、そっか。そう呟いて自分の席に戻っていく切原くんに苦笑する。単純らしい。
既にこんなやり取りには慣れていた。



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