08




「おはよ」

朝教室で本を読んでいたら丸井が凄い勢いで駆け寄ってきた。
何か顔が凄い真面目なんですが。

「お前、昨日仁王となんかあったのかよい」
「は?」

聞けば朝練の時からずっと機嫌がいいらしく、それが丸井には気持ち悪いらしい。
丸井以外のテニス部レギュラーも不気味に思うほどらしいから、よっぽどのことがあったのだろうという話で。

「仁王には聞いたの?」
「おぉ。そしたら秘密の一言で終わった」
「…へえ。じゃあ私も秘密ってことで」

そう言ったら丸井が頭を抱えてそれじゃ意味ねえんだよと叫んでた。
恥ずかしいから叫ばないで頂きたい。

「なーにブンちゃんは叫んどるんじゃ」
「あー仁王。おはよ」
「おはようさん」

のっそり姿を現した仁王を見上げればなるほど、丸井の言ったことがなんとなくわかった。
普段朝となると朝練後であろうと微妙に不機嫌だったりで無表情なことが多い仁王だけれども。
なんか、今日は笑顔です。しかも何か普段より2割増しくらいキラキラしてる気がする。

「丸井は仁王が朝から機嫌イイから気持ち悪いんだってさ」
「気持ち悪いとは失礼じゃのう、ブンちゃんは」

ムスッとした顔で仁王が丸井の頭をグリグリしている。
しかもかなり力入ってる。グリグリというか、上から押しつぶす感じ。

「やーめーーーー!縮む!」
「おー、縮め縮め。そっちのが可愛いぜよ」

とりあえず、じゃれあう二人は無視することにする。付き合っててもキリないし。
そのうち二人とも飽きたのか、微妙な距離をあけて少し睨みあってた。
なんていうか、うん。仲良いよね。

「昨日はどうもな」
「んん、どっちかっていうと付き合わせたの私だし。気にしなくていーよ」
「んで持ってきてくれた?今日もじゃろ?」

ぷいと丸井から顔を背けた仁王が今度はニコニコと声をかけてきた。
仁王の問い掛けに頷いて、後でねと付け加える。
昨日一緒に晩ご飯を食べていた時に何となくした約束。

「うわー、二人の会話!あーやしー!」
「丸井、コレあげるから少し黙ってよーか」

鞄から出した小袋を丸井に手渡して、にっこり。
パッと丸井の顔が輝く一方で、仁王の顔が険しくなる。
難しいよこの子たち。

「これクッキー?!さーんきゅ、北河!」
「えー!綾ちゃん俺には?!」

丸井は早速袋を開けてパクパク食べてる。あああ、食べカスがボロボロと!子供か?!
仁王は机掴んでガタガタ揺らすし。駄々っ子めー…。

「はいはい、仁王には後で一緒に渡すから文句言わないの」
「やだ、今がいい」
「駄々っ子は嫌いです」

ツンとしてそう言ってやると、ショック受けた顔してる。
それからしょんぼり。やっぱり最近の仁王は可愛いと思います。なにこの子。

「ああもうしょげないのー!ほらー」

仕方なく手渡せば、顔がぱあっと輝く。凄い差だよね。
ていうか何か仁王の母親になった気分。もしくは保母さんとか?
満足して自分たちの席に戻った二人を見送って溜め息。
後ろからはクスクスと笑い声が聞こえて、肩を叩かれて一言。

「大変だねぇ、子守も」
「…じゃあ代わってください…」
「それはムリ」

あっさり断られました。ていうか早いよ。速攻だね。





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