27
目の前の出来事が、信じられなかった。
全国大会、決勝戦。
その結果に、泣きたくなる。
2勝3敗という悔しい結果。あと、1勝。
「負けた、のう」
ぼそりと、隣に立った仁王が呟く。
真っ直ぐにコートに視線を向けたまま。
喜びに沸く青学と、まるで時が止まったように立ち尽くしたままの幸村。
「……負けて、悔しい?」
「言わんでも分かるじゃろ?」
苦笑交じりに、返された。
悔しいに決まってる。応援していた私ですら、こんなに悔しい。
実際に戦った彼らは、もっと悔しいはずだ。
「じゃあ質問変える。後悔するような試合だった?」
仁王に視線を向けるけど、仁王は相変わらずコートだけを見ている。
自分の試合を、思い出しているのかもしれない。
「後悔は、しておらんよ」
「…なら、いいんだ」
後悔してないならいい。
あとで悔やんだって、どうにも出来ないから。
それに安心して、少しだけ笑う。
悔しがって泣く切原の頭を撫でてやりながら、みんなの顔を見る。
丸井が涙ぐみながらジャッカルの肩に手をかけて俯いてる。
みんなそれぞれ悔しそうだ。
でも、多分ここで私が声をかけてもきっとどうにもできない。
スルリと切原の頭から手をどけて、一歩離れる。
今は、彼らだけのほうがいいかもしれない。
***
コートから離れて、一人でぼんやり歩く。
陽射しが眩しくて顔をあげると、空は綺麗な晴天。
木陰に入って木々の隙間から差し込む光を眺める。
どれだけそうしていただろう。5分か、10分か。それとももっと長かっただろうか。
時計を確認するのも億劫だ。
「酷い顔じゃのう」
がさ、という草を踏みしめる音と共に聞こえた声。
「うっさい」
視線も向けずに、言葉を返す。
顔を見なくても相手が誰かなんて分かりきっている。
ザザと足音が近づいてきて、視界が翳る。
「ごめん」
その言葉に顔を上げようとして、出来なかった。
目の前に広がった芥子色。
「綾ちゃんに優勝見せたかったんじゃけど、できんかった」
ぎゅうと抱きしめられて身動きできない。
だからせめて、背中を撫でる代わりに体を寄せる。
「優勝したら、綾ちゃんに言いたいことあったんじゃ」
耳の後ろで、溜め息。
「切欠がなくなったから、もう言えんのう」
仁王の言葉に、ちょっと呆れた。変なところでビビりだ。
小さく笑う。
「じゃあ、私が切欠をあげるよ」
私の声にピクリと反応する体。
え、と声をもらすのが聞こえた。
「何が言いたいのか、教えて欲しい」
抱きしめる力が一瞬弱まって、またぎゅうと力いっぱい抱きしめられた。
少し苦しい気もするけど、黙って仁王の言葉を待つ。
「…綾ちゃんには敵わんのう」
はは、と力なく笑って。
「好いとうよ。綾ちゃんのこと、ずっと好いとう」
耳元で、優しく、穏やかに囁かれた言葉。
力強い腕に抱きしめられたまま、私は小さく頷いた。
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