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ここ最近は幸村も戻ってきて部活が大変らしい。
まあ全国大会も近いし、それに関東大会決勝戦での雪辱を晴らすと言っているし。
練習にも熱が入るというものなのだろうけれど。
仁王も丸井も、教室でグッタリしてることが多くなってきた。

「あー、もーダメじゃ。綾ちゃん、俺次の授業サボるき、誤魔化しといてくれんか?」
「はいはい、ゆっくりしといで」

ヘロヘロとした足取りで教室を出て行く後姿。
心なしか髪の毛までくったりしてる気がする。よっぽど疲れてるみたいだ。
どうやって誤魔化そうか考えていたけど、次の授業は担任の数学。
何も言わなくても分かったのだろう、苦笑して仕方ないなと言ってた。
特に問題もなく授業を終えれば昼休みだ。
二人分のお弁当を片手に飲み物を買って、屋上に向かう。
屋上の日向は焼き石のように熱くなっているけれど、北側の日陰はワリと涼しい。
仁王の事だからココでサボっているだろうと見当をつけていったら、大当たり。
タオルを枕にすやすやお休み中。
さて、どうしたものかな。起こしてもいいだろうか。

「……にお、お昼だよー」

あまり大きくない声で呼びかけてみる。
ピクリと反応はしたけど、まだ起きそうにもない。

「…んん、」

低く呻って、寝返りをうつ。
お腹すいてきたから、そろそろ起きて欲しいんだけど。

「仁王、おーい。昼だってば。お腹すいた」
「……んー、あー…。綾、ちゃん…」

もそりと起き上がった仁王が、トロンとした顔でへらりと笑う。
ずりずりと近寄ってきたかと思えば私の隣に座って、肩にコテンと頭を乗せてきた。
ヤバい、なにこの子。すっごい可愛いんですけど…!!

「まだ眠い…」
「でももうお昼だし。まずお弁当食べようよ」

はい、とお弁当を手渡すとのろのろと動き出す。
お弁当を広げて私はさっさと自分の分を食べ始めるけれど、仁王はまだ微妙にウトウトしてる。

「仁王、ちゃんと食べようよ」
「むー」

もう、面倒臭い。
いつまでたっても覚醒しきらない仁王の額に、デコピンしてやる。

「い…った!」
「目ぇ覚めた?」

にっこり笑って聞くと、涙目になってデコを押さえた仁王がこくこくと頷く。
動きがしっかりしたのを確認して、お弁当を食べる。
途中で仁王が何回か欠伸をしていた。なんか猫みたいだ。

「ごちそーさん」
「はいはい」

仁王からお弁当を預かってそれを自分の分と一緒に片付けていたら、いつの間にか仁王が後ろに回りこんでいたらしい。
後ろからにゅっと手が伸びたかと思えば、そのままぎゅうとばかりに抱きしめられる。

「…にお、動けない」
「色気なかー」

そういって仁王が体を揺らして笑う。
髪の毛が首筋に当たってくすぐったいからやめてくれ。

「くすぐったいから離せ」
「やだ。…のう、綾ちゃん」

んー、と適当に返事をする。まだお箸片付けてないんだけど。
離してくれないから片付けられないんだよ。

「去年のこと、覚えちょる?」
「去年?」

去年のいつのことだろう。
思い出そうとしても、いつのことかも分からなくては思い出しようが無い。

「去年の、いつ?」
「そーじゃな、レギュラー戦のときじゃから…5月あたりかのう」

去年のレギュラー戦。
そのキーワードから、当時のことを思い出す。

「あー、はいはい。切原が無謀にも三強に挑んでった時か」
「まあそうじゃな。あの時お前さん俺と話したんじゃけど」

そうだったっけ?
グルグル思い出してみるけれど、そんな記憶もあるようなないような。
はっきり思い出せない。

「んー?」
「思い出せんのか…」

はあ、なんて溜め息をつかれた。人に抱きついといて溜め息つくなよ。

「俺、試合いっこ落として準レギュ止まりだったんじゃよ」
「あ、思い出した」

そういえば、派手な銀髪が3年の先輩に負けて準レギュだとか言って悔しがってたっけ。
水飲み場のコンクリに八つ当たりしてたな、そういえば。

「ガッツンガッツン水飲み場のコンクリ蹴ってたもんね」
「…余計なことは思い出さんでよか…」

むしろソレは忘れて、なんて言ってるけどあれは忘れられないよ。
すっごい痛いだろ、ってくらい蹴ってたし。
思わず止めたら凄い睨まれたし。
あの時の仁王は超怖かった、うん。視線で人が殺せそうだと思うくらいに。

「あんとき綾ちゃんが言った言葉がな、忘れられんのじゃ」
「え、何言ったっけ」

コンクリ蹴ってたの止めて、睨まれて、それから少し話をした?

「この間関東の決勝負けた時も、同じ事言ってくれた」
「ああ、だからあの台詞ね」

『あの時と同じ言葉』っていうのが何なのか、少し気にはなってたんだ。
まさかそれが、去年のレギュラー戦のこととは思わなかったけど。

「あの後から俺髪伸ばし始めたんじゃ」
「そういえばそうかも。あの時は尻尾なかった」

今となっては仁王のトレードマークだけど。
この尻尾、私は気に入ってたりするんだ。
猫背な仁王の背中で揺れてるのを見ると捕まえたくなる。
ひっぱると怒られるけど。

「あの時の事は忘れられん。それだけ、俺の中で大事な事なんじゃ」

仁王があまりにも穏やかに、幸せそうに言うものだから。
私はそれ以上何も言えず、ただ仁王の腕の中で大人しくしているだけだった。





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